「発声」とパフォーマンスの関係性 | フィジオ福岡 運動中の発声

多くのアスリートは、トレーニングや練習によって体力や技術を高め自身の競技パフォーマンスを向上させようと日々精進しています。その練習やトレーニング・試合など様々なスポーツ場面において、選手が運動中に声を出すことをしばしば目にしませんか?ある研究によると、瞬発力を必要とするパワー系のスポーツにおいて、「無発声」に対し「発声」しながらのパフォーマンスでは、最大筋収縮速度が約9%、筋パワーが14.6%増大したと報告されています。

「発声」は最大発揮筋力だけでなく筋の最大収縮速度や最大パワーを増すための有効な手段

たとえば、陸上級技の投擲選手は投げる瞬間に大きな声を上げたり、剣道や空手、各種格闘技などでは気合いを入れたり、相手を威嚇するために発声したりしています。このような「発声」と「パフォーマンス」の関係について、ある論文では被験者の自発的な「かけ声」と同時に筋力を発揮した場合には最大筋力が12.2%増大、ピストル音を鳴らすと7.4%の増大が見られたことを報告していて、さらに筋放電量も増大し中枢からのインパルス量が増大したことを報告しています。これは音の刺激が内耳から大脳へ入り、大脳皮質運動野の活動水準を高めるように働きかけたものであると考えられており、大脳に存在する「内抑制」を「音」という刺激による「外抑制」によって「脱制止」することでこのような結果になると考えられています。この他にも「発声」が筋収縮速度とパワーに及ぼす影響については、例えば「かけ声」とともに最大努カで肘の屈曲動作を行わせると、「かけ声」をかけない場合に比べて最大筋収縮速度が約9%増大、筋パワーは約14.6%の増大がみられたと報告しています。
このことからも、「発声」は最大発揮筋力だけでなく筋の最大収縮速度や最大パワーを増すための有効な手段の一つであると考えることができます。

発声という『動作』によっても運動にかかわる中枢や運動単位にその興奮性の変化を与える。

実験にもあったピストル音のような外部から与えられる音刺激の場合では、音刺激によって誘発された大脳の一部の興奮が大脳の他の領域に広がっていき大脳皮質運動野に働きかけて、下行性指令の周波数を増加させるから筋発揮は増大するのではないかという推測がたっています。一方で「かけ声」は自発的な発声という『動作』が主体となっていて、さらに自分の声が「音刺激」にもなっているので、同様の効果があるのではないかと考えられています。このとき、発声という『動作』が体肢の筋への運動指令に影響を与えるのか、はたまた発声による『音』の知覚刺激が運動単位の活動に影響をあたえるのかは今のところ明らかになっていません。
しかしながら、発声による『音』刺激だけでなく、発声という『動作』によっても運動にかかわる中枢や運動単位にその興奮性の変化を与える可能性があると考えることはできそうです。

「声をあげる」ことによって大脳内に生じた旧皮質の賦活作用より心理的限界が一時的に生理的限界へ。

このような「発声」という筋力発揮の有効な方法を、ある研究論文では「生理的」及び「心理的限界」という用語で説明しています。つまり、「声をあげる」ことによって大脳内に生じた旧皮質の賦活作用が、間接的に大脳皮質の興奮性を高め、大脳に生じた内制止(internal inhibition)を制止すること、つまり脱制止 (disinhibition)することで心理的限界から一時的に生理的限界へと高められるとしています。この「内制止」を制止させるための最も簡便な方法が「意志の集中」であり、「かけ声」いわゆる声を発声することはその具体的でかつ簡単な手段であると断言できるでしょう。

ぜひ「発声」をうまく用いてパフォーマンスを高めてみてはいかがでしょうか。

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