安定性と剛性|フィジオ福岡 スタビリティとモビリティの科学

代償動作は、ある程度の機能不全に対処する杖のようなもので、脳によって自然と形成されます。代償により、静的・動的な環境下で良好かつ再現性の高い運動制御(モーターコントロール)が発揮できなくなってしまうことがあります。このような場合、スティフネスとタイトネスが残された選択肢となります。ローカル筋による安定性が必要な場面でグローバル筋が活動してしまうケースは、まさにその好例です。この場合、スティフネスとタイトネスは傷害の結果ではないと考えられます。

多くは、習慣や誤った動作パターン、フォームやアライメント、姿勢、協調性が悪い状態で繰り返し動作を行った活動の結果であることが多いといえます。つまり機能的な運動制御(モーターコントロール)が働かないと、身体はスティフネスやタイトネスに頼るようになり、結果としてスティフネスがその人の動作特性の一部となってしまいます。

安定性か、可動性か

組織伸張性の低下や筋緊張の増加、関節の退行変性、全身のスティフネスは、安定性低下の副産物であるといえます。これらによって自然と制限が形成され、正常な感覚と運動の相互関係がうまく構築できなくなってしまいます。この状態での力学的な健全性・安定性は高まるかもしれませんが、これには限界があります。つまり、スティフネスは安定性そのものではないからです。ここで発生しているスティフネスは、本物の安定性ではないため、環境への適応能力が欠けています。したがって、可動性の問題はその裏に潜んだ安定性の問題の結果といえます。

この場合、可動性の問題を修正すると、安定性の問題が姿を現すため、まず可動性の改善と安定性の修正に対する反応を観察するとよいとされています。したがって、原因が何であれ、まずは可動性の制限を可能な限り解消することが重要になってきます。その後に安定性を再学習するための環境を用意します。その過程には数日から数カ月を要することもありますが、手順通りに可動性を改善させてから安定性のトレーニングに移行することを常に正しく行うことにより、可動性の修正の効果や感覚入力が改善していくことになります。

剛性と安定性

筋が収縮するとき、力と剛性が生成されます。剛性は常に安定化するように働きますが、力は安定化にも不安定化にも働きます。筋力の発揮とそれに対応する剛性の関係は完全に非線形であり、剛性の増大は筋活動開始後早い段階から生じます。つまり、筋が活性化するにつれて、脊柱は安定性を増します。しかし、力が増加し続ける場合は、剛性はほとんど増加せず、それどころか、筋力発揮が大きくなりすぎることで脊椎の座屈を誘発します。したがって、脊柱安定性を向上させるためには、筋力発揮と剛性のバランスを考えなければなりません。

また、この場合は単一の筋群だけをみるのではなく、貢献するすべての筋のバランスを見る必要があります。このバランスですが、不十分な剛性では関節を不安定にさせてしまうのは明白です。しかし、過大な剛性と筋収縮は関節に過度な負荷をもたらし、運動の妨げにもなります。十分な安定性とは、安定性に必要な筋の剛性と考えられますが、少し余裕をもった安定性がなければならないとされています。一般的に、適度な筋力により関節剛性が増加すれば、大きい筋力は必要とされないと言われています。正常な脊椎をもつほとんどの人では傍脊柱筋や腹壁の筋の適度な同時収縮により、腰椎の十分な安定性がもたらされることが明らかになっています。このことは、腰痛患者からアスリートに至るまで、人はすべての活動において低出力で持続的な筋活動を維持しなければならないということを意味しています。したがって多くの場合、「不十分な筋力」ではなく、「不十分な持久力」であると考えられます。経験的に考えても、強い腹筋は必ずしも脊椎、特に腰椎に対する安定性がもたらされるわけではないことが分かることでしょう。

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