人は誰しも年齢を重ね、年老いていきます。
年を取ると動けなくなるのは当たり前と簡単に片付けがちですが、「全く動けない」と「若い頃に比べると動けない」は大きく違います。
年齢を重ねるごとに身体機能が低下するのは事実であり、「動けなくなる」ことは確かなことですが、問題なのは「全く動けなくなる」恐れがあり、しかもそれは珍しいものではないということです。
高齢になると、ストレスへの抵抗性の低下などの生理的問題、認知機能障害やうつなどの心理・精神的問題、筋力の低下などの身体的問題、独居や経済的困難などの社会的問題が引き起こります。
これらは独立してやってくるのではなく、連鎖的かつ連続的にやってきます。
例えば、筋力の低下により転倒、骨折を起こしたとすると、身体活動が著しく低下し、病気への抵抗力も低下します。
骨折により、寝たきりになれば、全く動けないも同然です。
また一人暮らしの場合、友人との交流機会が減り、それが心理的問題を引き起こすこともあるでしょう。
これらが原因となって、さらに重篤な障害へと繋がることも少なくありません。
このようにどこから日常生活の破綻が起こるかは分かりません。
それを防ぐためにも、運動が必要なのです。
運動により得られる効果は、なにも筋力向上だけではなく、脳の活性化により、知覚や記憶や理解・判断、計算といった認知機能の維持・向上、また意志の決定と行動、社会性の向上などにも影響を与えます。
また、精神的ストレスの軽減や骨増強、関節可動域の拡大、疾病の予防などその効果はさまざまです。
年を取り、体の具合が悪くなることで、服用する薬の量が増えてしまいがちです。
その予防という意味でも運動は一番の薬だと言えるでしょう。
高齢者でもしっかりと筋トレを行えば筋肉量、筋力は大きく増加させることが可能です。
そして、その増加率は若者とそれほど変わらないのです。
筋トレを行っている人、水泳を行っている人、ランニングを行っている人の筋機能を比較すると、筋トレ群では、筋力、筋横断面積(筋量)、単位断面積当たりの筋力(主に神経系の能力によるとされる)、筋短縮速度のいずれにおいても他の群よりも値が高く、20歳代の平均と差がないといわれています。
対して水泳群、ランニング群での値は同年代の運動を行っていない人とほとんど差がありません。
もちろん、これらの運動も若々しい元気なカラダを保つ上で有効ではありますが、高齢者の筋肉を肥大させ、高い筋力を得るにはやはり筋肉に直接強い負荷をかける筋トレが最も効果的ということになります。
高齢になっても若年時と「まったく変わらない身体」を維持するのは無理かもしれません。
しかし、いくつになっても鍛えれば肉体を変えることができることは多くの研究結果からも支持されています。
トレーニングは年齢性別問わず効果的です。
人それぞれ、何を鍛えるべきで何をすべきかは違うため、その方法は百人百様です。
しかし、高齢者においては「こういう筋は鍛えるべきである」というものがあるといってもいいでしょう。
何を鍛えるべきか?
そのためには何をすべきか?
筋の特徴を考えると答えが導き出されます。 骨格筋量を正確に計測するというのは難しいものの、ある研究では、MRIでの計測では20代から70代で約26%の低下を示し、屍体解剖によれば骨格筋細胞量で約48%の低下を示しています。
また、大きく分けて2種類ある筋線維タイプ、有酸素能力の高い遅筋線維と無酸素運動能力の高い速筋線維の両方ともに筋力低下を示し、特に速筋線維の筋力低下が顕著に現れるという報告がな されています。
したがって、鍛えるべき筋は速筋線維含有率の高い筋であるということが分かります。
ある研究では、上腕の主な筋である上腕二頭筋において、80歳代と20歳代とで速筋線維に 24%の筋萎縮がみられましたが、遅筋線維に有意差はなかったという報告もあります。
トレーニングという点でみると、高齢者においても筋力・筋量の増加が認められており、レジス タンストレーニング、いわゆる筋トレでは速筋線維の増加が特徴的であり、有酸素運動においては遅筋線維の増加がみられます。
さらに、姿勢や歩行の観点から、上半身を起こす筋肉である殿部の筋、姿勢の保持や脚を上げる 筋肉である大腿の筋、歩行時に強く働く大腿前後面の筋、爪先の挙上や足部安定に働く下腿前面の筋、立位保持や下肢の血流に影響する下腿後面の筋など下半身の筋のトレーニングは必要不可欠です。
これらのことから、高齢者が鍛えるべき筋は、主に速筋線維であり、有酸素運動も必要ですが荷重をかけるいわゆる筋トレが有効で、特に下半身を中心にすべきであるということが分かります。
ここフィジオ福岡では、これらをベースに、その方に合わせたトレーニングを提供致します。
フレイルとは
フレイルとは、もともと「か弱さ」や「こわれやすさ」を意味する言葉です。こわれやすいものは大切に扱う必要があり、通常の対応とは区別しなければなりません。フレイル高齢者とは「こわれやすい高齢者」、すなわち健康寿命*を失いやすい高齢者であり、健康を保つための配慮が今まで以上に必要な人々です。適切な評価や手入れをすることで、健康寿命を延ばすことが十分に期待できるため、フレイルを早く見出し対応することが大切です。
老年医学の専門家は、次に挙げる5つの徴候のうち3つ以上そろうと「フレイル」と評価します。
1つか2つに該当する場合は「プレフレイル(フレイルの前段階)」、いずれも該当しない場合は「ロバスト(健常者、頑強者)」と捉えます。各徴候と関連する代表的な病気や状態について説明します。
①歩行速度の低下
フレイル高齢者の代表的な特徴は、歩く速さが低下していることです。歩行速度の低下は、加齢に伴う運動器の障害や心肺機能が低下する状態、脳や神経の病気、貧血や消耗性疾患などが原因となっていることがあります。
また、筋力の低下や活動能力の低下を伴い、移動能力が全般に障害されがちです。歩行速度の低下は、私たちの老いの状態を総合的に反映していると言ってもよいかもしれません。
②疲れやすい
からだが疲れやすくなったり、何かを行うことがおっくうになったりすることも、フレイル高齢者の特徴です。
心の病気や、体の消耗をきたす病気、あるいは心肺機能の低下を招く状態などが原因で起きることがありますが、しばしば服用している薬が原因となることもあります。近ごろ、多剤服用(ポリファーマシー)という言葉が話題になることがあります。持病が複数あるため、多剤服用がやむを得ないことはあります。しかし、複数の病院で処方された薬が、類似薬品であったり、効果が真逆の薬品であったりするなど、不適切な状態を招くこともあります。
③活動性の低下
意欲の低下や抑うつなどが原因になったり、移動能力の低下に関連する病気や状態が原因になったりします。社会的な環境、たとえば今年のように、新型コロナウィルスの蔓延予防のため、外出自粛をせざるを得ない環境であったり、引っ越しや退職を契機に社会的な付き合いが変化し、活動性が低下したりすることもあります。人との付き合いを面倒に感じ、活動する機会が減っているときは注意が必要です。
④筋力の低下
筋力の低下は、加齢に伴って起きる生物学的な変化です。加齢の影響以外には、筋肉を使わないことによる衰え、病気や薬の影響による衰え、栄養の不足による衰えがあります。近年、サルコペニアという用語が使われますが、これは、筋力や筋肉量の低下を特徴とする状態を表し、フレイルの中核的な特徴と位置付けられています。
⑤体重減少
意図しない体重の減少は、高齢者にとって注意すべきサインです。高齢者の体重減少は、消耗性疾患や悪性腫瘍などが潜在していることもあるため注意が必要です。半年で5%より大きな体重減少(50kgの人なら2.5kgより大きな体重減少)がある場合には、心や体に隠れた病気がないか調べる必要があります。
これらの5つの徴候は、互いに関連し合って、「フレイルサイクル」という悪循環を形成し、私たちの健康寿命を奪っていきます。
そのような悪循環に陥らないためにも、早期からこれらの徴候に注意をしておくことが必要です。
加齢により筋骨格量は減少し、筋力低下を引き起こすことはよく知られています。加齢による筋力低下は上肢よりも下肢のほうが早く、下肢の筋力低下は身体活動の制限に直結し、生活の質の低下を招きます。また加齢や廃用による筋力低下が転倒や転倒による骨折のリスクを増大させます。したがって、高齢者が自立した生活を維持する手段として、高齢者に対する筋力エクササイズの実施が近年重要視されています。
適切なレジスタンストレーニングの実施
高齢者を対象とした筋力エクササイズの効果として、高齢者においても適切なレジスタンストレーニングの実施により若年層と同様に筋力は増加して筋肥大が起こることは証明されています。高齢者に対する筋力エクササイズの具体例としては最大筋力の70~80%で反復回数は8~12回程度が妥当であるとしています。筋力エクササイズの効果を得るためには、負荷強度は最も重要な要素の1つとなりますが、高齢者を対象とした場合に筋力エクササイズ実施の安全性を考慮すれば、その導入には低強度から高強度への斬新的な移行などの配慮が必要になります。
低強度筋力エクササイズの効果
また低強度でも筋力エクササイズの効果は認められています。セット数は高齢者の場合1セットでも効果的で、週に2~3回の頻度が推奨されているが、筋力エクササイズによる筋線維の損傷は若年者に比べて高齢者では大きいと指摘されていることには注意が必要です。高齢者は普段の生活様式の違いにより、その体力水準や健康状態などに個人差が大きいので、このような筋力エクササイズのプログラムを作成する際には個人に応じたきめ細やかな配慮が必要になります。そして介護保険利用者に代表される虚弱な高齢者にとっては、自重による負荷であれども、相対的に高強度の負荷になりうることも理解することが必要です。
高齢者のトレーニングの考え方は、中高年だからといってトレーニングの内容を入れ替える必要があるわけではありません。
基本的なフリーウエイトでの多関節を動かすメニューはしっかりと続けていくべきです。
60歳になったからといって若い時に行っていたメニュー完全にやめてしまうというのはもったいないです。
むしろ基本的な種目、たとえばスクワット、デッドリフト、ベンチプレスなどの種目をやめることは、加齢による衰えを加速させてしまうことになります。
ただし、内容については変えるべき点も多くなります。
若い時よりも休息を増やすことで怪我のリスクを軽減し、神経系の回復を促すこと、十分な睡眠も重要となってきます。
また加齢によってアナボリックホルモンは減少していくため、一層これらのホルモンの分泌を促す必要がでてきます。
そのためには、多関節種目でしっかりと全身を刺激することが求められていきます。
なぜなら、多関節種目は体内のホルモン分泌を活発にし、体を若く保つ作用をもたらしてくれるからです。
筋力、筋量の向上、筋神経系の活性化、心肺機能の向上、骨密度の維持などのためにも、基本的な種目でしっかりとトレーニングを行うことが高齢期のトレーニングでは重要になってきます。
またこれらの重量を上げるトレーニングを行う場合、関節や靭帯の負担を考えて重量を落とす必要性もでてきますし、トレーニング頻度も減らすことは念頭に置いておかなければいけません。
決して若くなっているわけではないですので。
しかしながらフリーウエイト主体のトレーニングを重量の調整し、トレーニング頻度を考えながら、負荷を与える時とオフを計画的にいれてトレーニングすることを行いながら有酸素運動を組み合わせた運動習慣をつけることで、いつまでも健康的なカラダつくりをを行うことが可能になっていくと考えられます。