ACL損傷のメカニズムとリコンディショニング|フィジオ福岡 ACL損傷について考える

膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament:ACL )損傷はスポーツ外傷の中でもとりわけ重篤な外傷です。
ACL損傷を負った選手は治癒のために靭帯再建術が必要になる場合が多く、その場合はリハビリテーションによって長期間の競技離脱を余儀なくされることが多く見受けられます。
このACL損傷者には共通して観察される特徴があるとされています。

「下肢のアライメント異常」が損傷の危険因子と考えて間違いない。

まずは「下肢のアライメント異常」の存在です。
多数の研究論文から、過度な外反膝や過回内足がACL損傷の発生に寄与するということが報告されています。
またこの他にも、全身の関節弛緩性、あるいは膝関節自体の弛緩性の高さとACL損傷との関連が報告されています。
さらに女性では、性ホルモン動態がACL損傷に関与すると考えられています。
これらの共通項はACL損傷者に見られる損傷の危険因子と考えて間違いないでしょう。

実際にACL損傷損傷を予防するための取り組みとしては、これら報告されている危険因子を評価項目としてスクリーニングを行いハイリスクな集団を特定することが、ACL損傷の予防策を効率的に進める上で不可欠であるといえます。

運動中に生じる膝関節外反はACL損傷のメカニズムになると予測されている。

2005年の論文でHewettは、205名のアスリートを対象にジャンプ着地タスクの動作解析実験を行い、そして後2年間のACL損傷の発生を調査しています。
その報告結果をみると、調査期間中にACL損傷を経験した9名の被験者は他の被験者に比べてジャンプ着地時の膝関節外反角度および膝関節を外反強制する関節モーメント(膝関節外反モーメント)が有意に高値を示したと報告しています。
この報告は、運動中の過度な膝関節外反や外反モーメントがACL損傷の危険因子となることを示しています。
これまで多数の報告によりジャンプ着地やカッティング動作といった荷重減速動作中に膝関節外反が生じることが確認されており、さらにACL損傷率が男性と比較して高い女性において膝関節外反が顕著であるという報告から、運動中に生じる膝関節外反はACL損傷のメカニズムになると予測されていきました。
Hewettの報告はこれらの予測に対し、ACL損傷と膝関節外反との関連をより明確に示した内容になりました。

先に挙げた下肢アライメント異常や関節弛緩性は静的な要因であったのに対し、Hewettの報告は運動中に生じる関節の挙動をスクリーニング指標として注目した点で新規性があり、動的因子のスクリーニングの必要性を主張するものであり、今回のケースのようにACL損傷の危険因子をスクリーニングする過程においては下肢の運動学、とりわけ膝関節外反を評価項目に加える必要性を訴えるものであるといえます。

ぜひ現場でのスクリーニングには静的評価以外に動的評価をスクリーニングするようにしていきましょう。

ACL損傷の術後リコンディショニングプログラムを考える。

ACL損傷の術後リハビリテーション期間は長く、半年以上を要するため、選手の早期復帰を期するためにも、科学的根拠に基づいたリコンディショニングプログラムを構築することが求められます。
ACL損傷後には、観血的に靱帯を再建することが多いですが、近年では半腱様筋腱と薄筋腱を使った再建術を用いる事が増えてきました。
とある研究結果で、半腱様筋から腱を採取した後に、約90%の選手に腱の再生がみられますが、MRIを使ってその再生過程を調査した結果、術後3ヶ月間がクリティカルなポイントであることと発表されています。

また半腱様筋は膝関節の深屈曲位で筋活動が多く認められることから、術後約3ヶ月間は腱の再生を促すためにも膝深屈曲位までの膝関節屈曲動作を避けることが推奨されています。
一方で訓練後期から復帰準備期にかけては、半腱様筋の筋力を高めることも重要になってきます。

従って半腱様筋を積極的に活動させるようなノルディックハムストリングによって、選択的に半腱様筋の筋力を高めていくことができると言われています。

動作の不良が外傷再発のリスクファクターとなる。

さらに復帰準備期においては、切り返し動作など競技特有の動きを学習させることが求められます。
この動作の不良が外傷再発のリスクファクターとなるからです。
実際の指導現場で、膝関節外傷から復帰した選手の動きを観察していくと選手の筋力は競技復帰前のレベルにあり健側・患側もないにもかかわらず、切り返し時に膝関節靱帯損傷の危険肢位であるKneein Toe-out肢位をとる選手も少なくないのが現状です。
このような動きの問題に影響する要因として、切り返し動作中の減速・停止局面のフットワークのエラーや片脚支持力の低下などを考慮する必要があります。

つまり筋力だけに注目するのではなく動作を観察し、その問題点を分析しながら再発リスクの少ない動作を学習させることが障害予防・再発防止に重要になっていきます。

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