睡眠は大脳を休息させるためにある
活動と休息のリズムはほとんどの生物にみられる現象です。しかしながら、睡眠は単なる休息ではなく、発達した脳を持つ高等動物にだけみられる高度な総合機能であるともいえるでしょう。
睡眠は実は脳の進化とともに発達してきたといっても過言ではないかと思います。特に進化の上で最も新しい脳、つまり大脳が大きくなるにつれて睡眠の役割は極めて重要になってきて、その仕組みは極めて複雑で精巧なものとなってきたものです。大脳は莫大な数のニューロンの集合体。この大脳が膨大な情報を処理してくれています。だが、大脳は極めてエネルギー消費量が高いので、連続運転するとオーバーヒートしやすいのです。また、酸欠に弱く、疲労しやすくもあります。そのため、大脳はずっと働かせるのではなく、休ませることが求められます。これが睡眠です。このように大脳は「眠る脳」でもあり、大脳の休息を調整する「眠らせる脳」にもなるということになります。
眠気はいかにして起こるか
眠気は規則的にやってくるものですが、ときとして風邪やインフルエンザのような感染症の症状としてもみられます。感染に対する免疫反応と睡眠の調節とは直接的に関連している可能性があります。睡眠についての研究から、多くの睡眠促進物質が同定されています。その大部分は生体の免疫系と相互作用をもつことが知られています。
1970年代にハーバード大学の生理学者であるJohn Pappenheimerは、睡眠を剥奪されたヤギの脊髄液中にノンレム睡眠を促進するムラミルジペプチドという物質を見つけました。通常この物質は脳では産生されず、細菌の細胞壁によってのみ産生されるもので、発熱を引き起こし、血中の免疫細胞を刺激します。この物質がどのように脊髄液中に出現するかは不明ですが、腸内で細菌によって合成されたものであると考えられています。その他の睡眠促進因子であるインターロイキン-1は、外来異物の処理をする脳のグリア細胞やマクロファージで合成されます。インターロイキン-1も免疫系を刺激するタンパク質となります。
睡眠促進因子の候補
近年、睡眠促進因子の候補としてあげられているアデノシンは、コーヒー、紅茶、コーラを飲んでいる多数の人々に眠気をもたらすことが知られています。アデノシンは、DNAやRNA、ATPなどの最も基本的な生体分子を作る際に、すべての細胞で使われている分子です。アデノシンはまた、いくつかのニューロンによって放出され、脳全体のシナプスで神経修飾物質として作用します。古くからカフェインやテオフィリンなどのアデノシン受容体の拮抗物質は、覚醒を維持する目的で用いられてきました。
逆に、アデノシンあるいはその受容体作動薬の服薬は眠気を増大させるものとなります。調べられた脳の複数の領域において、睡眠中より覚醒中に細胞外アデノシン濃度が高いことが明らかになっています。また覚醒が持続するとその濃度はしだいに上昇します。アデノシンの濃度は睡眠中には徐々に減少していきます。
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