トレーニングの初期段階における神経適応とその後の筋肥大

トレーニングを開始してからの初期段階(約1~1.5ヶ月)では、筋力の著しい増加が見られますが、この期間に筋横断面積の大幅な増大はほとんど見られません。この現象は、主に神経系の適応によるものであり、筋力発揮の効率化が大きな要因となります(Enoka & Duchateau, 2015)。

初期段階では、中枢神経系およびコルジ腱反射の抑制が低減することにより、筋横断面積当たりの筋力が増加します。この期間のトレーニングによって、運動単位の同期化や発火頻度が向上し、効率的な筋力発揮が可能となります。ただし、トレーニング経験者においては、こうした神経系の適応を最大限に引き出すために、高強度(1RMの90%以上)のトレーニングが必要とされています(Gabriel et al., 2006)。

神経適応が上限に達すると、筋横断面積の増大、すなわち筋肥大が始まります。筋肥大は主にタイプⅡ筋繊維の横断面積の増大によって起こります(Folland & Williams, 2007)。一部の研究では、トレーニング条件によっては筋繊維の損傷とその再生も伴い、筋繊維数の増加も起こることが報告されていますが、その程度は非常に小さいとされています(Bruusgaard et al., 2010)。

筋肥大には、筋内でのタンパク質合成の活性化が不可欠です。この過程には、筋繊維が強く活動することに加えて、内分泌系の活性化が重要な役割を果たします。筋繊維が繰り返し活動すると、その活動に有利となる特定のタンパク質の合成が促進されます(Phillips, 2014)。通常、トレーニングは無酸素性代謝に依存するため、無酸素性代謝能力が向上しますが、中~高強度、大容量のトレーニングを行うと、タイプⅡb筋繊維において有酸素性代謝も向上します(Campos et al., 2002)。

さらに、トレーニングによって筋繊維内のグリコーゲン量やクレアチンリン酸濃度が増大し、これらも筋繊維の肥大に寄与します(Haff et al., 2000)。これらの変化は、筋力と持久力の向上に寄与し、全体的なパフォーマンスの向上に繋がります。

総じて、トレーニングの初期段階では神経系の適応が筋力増加の主因となり、長期的には筋肥大が進行するために筋内のタンパク質合成や内分泌系の活性化が重要となります。これにより、持続的なトレーニングによって効果的な筋力と筋量の向上が達成されるのです。


参考文献:

  • Bruusgaard, J. C., Johansen, I. B., Egner, I. M., Rana, Z. A., & Gundersen, K. (2010). Myonuclei acquired by overload exercise precede hypertrophy and are not lost on detraining. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(34), 15111-15116.
  • Campos, G. E., Luecke, T. J., Wendeln, H. K., Toma, K., Hagerman, F. C., Murray, T. F., … & Staron, R. S. (2002). Muscular adaptations in response to three different resistance-training regimens: specificity of repetition maximum training zones. European Journal of Applied Physiology, 88(1-2), 50-60.
  • Enoka, R. M., & Duchateau, J. (2015). Inappropriate interpretation of surface EMG signals and muscle fiber characteristics impedes understanding of the control of neuromuscular function. Journal of Applied Physiology, 119(12), 1516-1518.
  • Folland, J. P., & Williams, A. G. (2007). Morphological and neurological contributions to increased strength. Sports Medicine, 37(2), 145-168.
  • Gabriel, D. A., Kamen, G., & Frost, G. (2006). Neural adaptations to resistive exercise: mechanisms and recommendations for training practices. Sports Medicine, 36(2), 133-149.
  • Haff, G. G., Koch, A. J., Potteiger, J. A., Kuphal, K. E., Magee, L. M., & Green, S. B. (2000). Carbohydrate supplementation attenuates muscle glycogen loss during acute bouts of resistance exercise. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 10(3), 326-339.
  • Phillips, S. M. (2014). A brief review of critical processes in exercise-induced muscular hypertrophy. Sports Medicine, 44(1), 71-77.

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