運動エネルギーと位置エネルギーの変化

歩行時のエネルギー消費は、年齢や身長、体重、性差、履物、心理状態、歩行速度、疾病の有無、地面や床面の状態、傾斜、段差、風速などの環境要因によって変動します。一定距離を移動するのに、歩行速度を速くすれば、所要時間は短縮されますが、作業強度は大きくなり、消費されるエネルギーは増加します。

距離あたりのエネルギー消費

速度を遅くすれば、所要時間は延長し、全体として姿勢保持などに費やされるエネルギーが増加してしまいます。その中間にエネルギー要求量が最小になる歩行速度があり、至適速度と呼ばれています。一般に、日本人の歩行至適速度は、70~75m/minであるとされています。基本的には、速度が速くなれば消費エネルギーが増加しますが、同じ速度であっても、上り坂ではエネルギー消費が増加し、下り坂では減少します。しかし、下り坂をゆっくり下りるときは、エネルギー消費は増加します。また、硬いアスファルトに比べて、柔らかい土の上では、歩行のエネルギー消費は30~40%も増加します。履物も重要になり、約7.5cmのハイヒール履くと10~15%の増加が起こります。

距離あたりのエネルギー消費を歩行と走行で比べると、走行のほうが高くなりますが、歩行速度が120~130m/minを超えると、走行よりも歩行のほうがエネルギー消費が高くなります。

運動エネルギーと位置エネルギーの変化

歩行は一定の前進速度で行われているようにみえますが、実際には、身体は各ステップごとにわずかに速度を速めたり遅めたりしています。支持下肢が体重心の前にある場合には身体速度が遅くなり、反対に支持下肢が体重心の後ろにある場合は身体速度が増します。そのため、身体が支持下肢を登りきる立脚中期に歩行速度が最も遅くなり、身体が支持下肢から離れ、対側下肢を登り始める前の両脚支持期に最も速くなります。歩行中、身体の運動エネルギーは、立脚中期のとき最小であり、両脚支持期のときに最大となります。

運動エネルギーは位置エネルギーによって補完され、位置エネルギーは身体質量、身体に作用する重力、そして体重真の高さの関数となります。歩行中、体重心が最高位に達したとき(立脚中期)位置エネルギーが最大となり、最小の位置エネルギーは両脚支持期で、体重心が最低位にあるときになります。歩行中の運動エネルギーと位置エネルギーの変化をグラフにすると、2つのカーブの関係が容易にわかりますが、最大の位置エネルギー時は、最小の運動エネルギー時に相当し、逆もまた同様です。立脚中期から両脚支持期まで位置エネルギーが失われるにつれ、運動エネルギーが獲得されます。つまり体重心が最高位から最低位になるにつれて、体重心は最小から最大速度へと向かいます。

筋がつくりだすエネルギーに依存。

反対に、運動エネルギーは両脚支持期から立脚中期のあいだに失われ、位置エネルギーが獲得されます。したがって、その身体は逆振り子様の動きを行い、身体の位置形態と運動形態の間に最も効果的な力学的エネルギー転換が起こるように最適な大きさの垂直方向の振幅がみられます。この最適の垂直の振幅から逸脱した歩行はエネルギー消費を増加させることが分かっています。運動と位置エネルギーの周期的な移動は歩行における代謝を最小限にしますが、この過程だけで安定した歩行速度を維持できるわけではありません。したがって、歩行は完全な振り子運動とは異なり、筋がつくりだすエネルギーに依存します。

下肢筋は、立脚相の間は身体の前方推進を支え、遊脚相の間は下肢の推進を助けるように力を生み出す必要があります。

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