脂質の特性と運動による代謝

ヒトを含めて動物は、長い進化の過程で、絶えず飢えの危険にさらされてきました。そのため動物は、余分なエネルギーを摂取した時にはそれを脂肪の形で蓄積し、飢餓の際にはそれを利用することによって生き延びるしくみを獲得してきました。しかし皮肉なことに、エネルギーの過剰摂取と運動不足が常態化した現代の先進社会においては、このしくみは肥満の原因となり、さらにはいわゆるメタボリックシンドロームの誘因となっています。

脂質の特性

一般的に脂肪とは本来、油脂のうち、常温で固体のものをいいます。油脂の成分はトリグリセリド(中性脂肪)であり、グリセロールの3つの水酸基に、脂肪酸がそれぞれエステル結合したものになり、生物がもつ油脂は、様々な脂肪酸組成のトリグリセリドの混合物のことをいいます。脂肪は、生物が利用できる他のエネルギー源、たとえば炭水化物のグルコース(ブドウ糖)などに比べて、もともと同じ重さ当たりに含まれているエネルギーがはるかに大きいという特徴をもちます。(タンパク質4.1kcal,脂質9.3kcal、炭水化物4.1kcal)

また動物の重要なエネルギー貯蔵物質のひとつであるグリコーゲンは、グルコースが多数連なったものであり、生体内では多くの水分子と結合するため、さらに重くなるといった特徴があります。それに対して脂肪は疎水性が高いので、水とは結合しません。このため生体内では、結合している水を含めた実質的な重量当たりで比較すると、脂肪はグリコーゲンの約6倍ものエネルギーを蓄えることができるすごいエネルギー貯蔵庫なのです。

したがって脂肪は、からだの機動性を損なうことなく大量のエネルギーを貯蔵するのに、最も適した生体物質であるともいえます。実際、普通の成人では、数ヶ月間、食べなくてもよいくらいのエネルギーが脂肪として蓄えられているのですが、グリコーゲンはせいぜい24 時間分しか蓄えられていないといわれています。すなわち、グリコーゲンは短期的なエネルギー貯蔵形態であるのに対し、脂肪は長期的かつ大量の貯蔵形態といえます。脂肪を蓄えるということは本来食料が乏しく栄養状態が不安定な状態でしっかりと栄養供給するための仕組みです。これが現代では必要としない機能になりつつあるのかもしれませんね。

脂質の代謝

食物として脂質が摂取されると、小腸上皮から吸収されます。食物中の脂質はほとんど中性脂肪ですが、小腸でグリセロールと脂肪酸に分解され、吸収されると再び中性脂肪に再合成され集合します。この集合体は、キロミクロンと呼ばれ、リンパ液に瞬時に入り、リンパ管に拡散され、他の場所に輸送されることになります。このキロミクロンは、胸管を上行し鎖骨下静脈内に移行します。鎖骨下静脈に入ったキロミクロンのほとんどは、肝臓、あるいは脂肪細胞、筋肉組織などの毛細血管を通る間に、毛細血管壁にあるリポタンパクリパーゼにより、中性脂肪は脂肪酸とグリセロールに分解されます。その分だけ、中性脂肪は血液中から取り除かれることになりますし、分解されできた脂肪酸は筋肉細胞などでエネルギー源として利用されます。このような流れで食事で摂取した脂質がそのまま中性脂肪として血中に存在するのではなく、脂肪酸とグリセロールに分解されてエネルギーとして代謝されることになります。

脂質の代謝には脂肪分解酵素(リパーゼ)が働きますが、運動に関連して、脂肪組織の中性脂肪に働くホルモン感受性リパーゼとタンパク質と結合して血中に存在する脂質に働くリポタンパクリパーゼがあります。持久性運動時などに糖質のエネルギー源が不足してくると、脂肪組織中に存在する中性脂肪はホルモン感受性リパーゼの作用により分解され、血中に遊離脂肪酸が放出されます。この遊離脂肪酸の大部分は筋や心臓などの組織に運ばれ、エネルギー源として利用され、残りは肝臓へ運ばれます。肝臓に取り込まれた脂肪酸は再び中性脂肪に合成され、超低比重リポタンパクとして血中に放出されます。

運動による脂質代謝

運動を行うことによって、リポタンパクリパーゼの活性が高まることが知られています。血中のリポタンパクは、末梢血管壁に局在するリポタンパクリパーゼによって分解され、その結果生じた遊離脂肪酸は先に述べたようび筋や心臓などの組織に運ばれてエネルギー源として利用され、残りは肝臓に運ばれます。運動時に脂質がエネルギー源として利用されるので、血中のコレステロールやリポタンパクなどの中性脂肪が高い状態にある高脂血症の患者には運動療法が用いられます。

運動中のエネルギー源は主に糖質と脂質ですが、比較的運動強度が低い有酸素運動を行っている時に、全エネルギー源に占める脂質の割合が高くなります。したがって、運動療法を行うときは有酸素運動を適していると考えられています。運動強度が高いと、逆に血中中性脂肪が上昇するという報告があります。また運動を行いリポタンパクリパーゼの活性が高めることで増加するHDLコレステロールは、コレステロールを末梢から肝臓へ輸送する働きを担っており、これによって血中のコレステロール血が低下することも報告されています。

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