情動の記憶は何処へ

ヒトは物事を学習し行動を変容させる生き物ですが、それには記憶というものが大きく関わっています。記憶には短期記憶・長期記憶があり、これらは主に脳の海馬が役割を担っています。しかし、「怖い」や「嫌だ」といった情動的な出来事と関連付けられる記憶は大脳辺縁系の扁桃体という器官が役割を担います。言い換えれば、好き嫌いを分ける器官でもあるということです。

すき・嫌いの感情記憶

扁桃体には視覚、聴覚、嗅覚、味覚などさまざまな情報があつまります。それらを統合して扁桃体が興奮すると、視床下部に情報を送り、視床下部と連絡しているA-10神経からドパミンが分泌されます。この時の快感が好きだという感情を生み、扁桃体の細胞に記憶されます。
一方、恐怖の記憶の際、感覚情報は扁桃体の基底外側複合体、特に外側核へと送られ、そこで刺激の記憶と関連付けられます。刺激と予測される出来事との連合は、持続的な興奮性シナプス後電位によりシナプス応答性を上げる長期増強を介して行われます。外側核のシナプス応答に刷り込まれている情動的経験の記憶が、扁桃体の中心核との接続を介して恐怖行動を引き起こします。中心核は、硬直や呼吸と脈拍の増加、ストレスホルモンの放出などの多くの恐怖行動の産生に関係しています。

記憶固定の調節

扁桃体は記憶固定の調節にも関わっています。学習される出来事の後に、その出来事の長期記憶が即座に形成されるわけではありません。むしろその出来事に関する情報は、記憶固定と呼ばれる処理によって長期的な貯蔵庫にゆっくりと同化され、半永久的な状態へと変化し、生涯に渡って保たれます。記憶固定の際、その記憶には調節が起きます。特に学習される出来事の後の情動の喚起は、その出来事の記憶を強める影響を起こします。
学習される出来事の後の情動の喚起が強いほど、その人の持つ出来事の記憶の保持が強化されます。
マウスを用いた実験では、マウスが何かを学習した後すぐにストレスホルモンを導入し2日後にテストすると、記憶の保持が強化されているという実験が示されています。
このように情動と関連付けられた記憶は扁桃体に貯蔵されており、より強い情動は記憶の保持が強く強化されているのです。

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