ATPを産生するメカニズム

筋収縮のエネルギーでもあるATP。
このATPを産生するメカニズムは①クレアチンリン酸(PCr)の分解によるATP-PCr系、②グリコーゲン、グルコースなどの分解による解糖系、③脂肪酸、グルコース、グリコーゲンなど酸素を用いて分解する有酸素性の3つに分類されます。

ATP-PCr系(無酸素性)

ATPを最も早く供給できるのがATP-PCr系のメカニズムです。高い運動強度の時には筋中にあるATPが利用されますが、非常に少量のATPしか蓄えられないため、すぐに枯渇してしまいます。そこで、筋中にあるクレアチンリン酸が分解しATPを再合成することでATPを産生します。しかしクレアチンリン酸の含有量も少ないために、約8~10秒程度しか供給できません。短距離やウエイトリフティングなど短時間で高いパワーを発揮するような運動や強度の高い運動開始時の供給系として利用されます。分解されたエネルギーの貯蔵量は、時間の経過とともに運動前の状態に戻ります。リン酸の回復は最初の30秒で約70%に回復し、3~5分でほぼ完全に回復します。

解糖系(無酸素性)

解糖系は酸素を利用せず、グリコーゲン(グルコースが骨格筋に貯蔵された状態)またはグルコース(ブドウ糖)をピルビン酸に分解する際にATPを産生します。その過程において代謝産物として乳酸が形成さます。高強度の持久性運動では、10時間で60%、完全回復には48時間かかるといわれています。

有酸素系

有酸素系機構は、低強度の持続する運動における主要なATP供給システムです。運動強度が低い運動では、酸素を利用しATPが産生されます。有酸素性によるATPの産生は、筋繊維内のミトコンドリアで行われます。有酸素性供給機構は、ADPとPiからATPを再合成するのに約60~80秒程度の時間を要するとされています。

どのエネルギー源を使うのか

体内には種々のエネルギー源があり、運動のタイプ(種類、強度、時間など)により主に糖質を使うか、それとも脂質を使うかが決定されます。無酸素的エネルギー産生には糖質のグリコーゲンやグルコースが利用され、有酸素的エネルギー産生では脂質の利用が増加します。また、運動が長時間に及ぶと脂質の利用が増加し、糖質の利用が減少します。

ウォーキングのような最大酸素摂取量の25%に相当する低強度の有酸素的エネルギー運動では、脂肪組織(皮下、内臓)の貯蔵脂肪分解による遊離脂肪酸が主なエネルギー源となります。少し息が弾む中強度(~65%Vo2max)の運動では、脂肪組織と筋肉の中性脂肪の分解によるエネルギーが約3分の2を占め、残りは筋肉グリコーゲンによることになる。

一方、ほぼ全力に近いような高強度(~85%Vo2max)の運動の主なエネルギー源は筋肉グリコーゲンとなります。エネルギー産生に利用された基質の貢献度は、酸素消費量と二酸化炭素排出量から計算される呼吸商(RQ)により知ることができます。呼吸商が1.0に近いほど糖質の酸化量が多く、0.7に近いほど脂質の酸化量が多いことになります。

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