細胞内共生説

化石から推測すると、約35億年前に原始生物が誕生し、真核生物したのは約10億年前になります。このことから生物の進化の歴史の半分以上は原始生物のみの時代であったと言えます。原始生物からどのようにして真核生物が出現したかについてはいくつかの説がありますが、近年はマーギュリス(1967)によって提唱された共生説が有力です。

細胞内共生とは

彼女が提唱した細胞内共生説は、現在の真核生物の細胞内でみられるミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官は、かつて独立して生活していた原核生物でしたが、やがて他の原始生物の細胞内に入りこみ、共生生活を続けて、その細胞の細胞小器官として共存するようになったという考えです。

その根拠としては、以下の事実が挙げられています。
シロアリの一種の腸の中に共生している原生生物の一種は、多数の鞭毛によって移動しています。それを電子顕微鏡で観察すると、鞭毛にみえるのは細胞表面に共生している細菌の一種であり、またその細菌に密着して細胞表面の他の細菌も共生し、細胞内にも別種の共生生物が存在します。それらの共生している細菌類はばらばらに行動するのではなく、規則正しい運動を示すように互いに調和した行動を示します。また、別な根拠としてミトコンドリアや葉緑体にはそれぞれ核と違うDNAが含まれていること、それらの細胞小器官内にあるリボソームは真核生物の細胞性のリボソームより小さく、原核生物のリボソームで同じ型であることなどがあります。

進化の過程で言うと、まず地上に最初に現れた原核生物は、時の経過とともに三つのタイプに進化します。第一が原始真核生物、第二に葉緑体の祖先となる原核生物、第三にミトコンドリアの祖先となる原核生物です。第一の原始真核生物は、細胞膜を取り込んで新たに二重膜で覆われた核という細胞小器官を発達させ、その中に自らの遺伝情報を担っているDNAを確保することで真核生物へと進化していったと考えられます。

共に生きるという選択

一方、葉緑体の祖先となった第二の原核生物は光合成をする能力を進化させ、原始の地球に豊富に存在した二酸化炭素と水と太陽光を利用してブドウ糖と酸素を合成しました。原始の地球には元々酸素は存在しませんでしたが、この光合成によって太陽の光エネルギーはブドウ糖として蓄えられる一方、地球上にはじめて酸素が誕生し蓄積されていきました。酸素は生物が生きていく上で必須なものですが、実は生物にとって極めて危険な物質でもあります。酸素は電子を引きつける力が非常に強く、周囲にある物質と手当たりしだい結合するという性質を持っています。そのため、酸素が体内に入ると、生命活動に必要なDNAやタンパク質と酸化反応を起こしてボロボロにしてしまいます。

原始真核生物は、核膜によってDNAを保護するよう進化していましたが、酸素に対する防御は不十分で、他の原始生物と同様、そのまま死に絶えるか、酸素の少ない地下の限られた空間に逃げ込むしかありませんでした。ここでミトコンドリアの祖先が誕生すると、その酸素を利用してブドウ糖を二酸化炭素と水に分解し、その時ブドウ糖に蓄えられた化学エネルギーをATPに変換する、いわゆる細胞呼吸を行う能力を獲得しました。

そこで生命の危機に立たされていた原始真核生物の一部は、このミトコンドリアの祖先を取り込んで、自らには有害である酸素の処理工場であると同時に生命エネルギー生産工場として利用したのです。ミトコンドリアと共生しはじめた真核生物は、現在のアメーバやゾウリムシのような単細胞生物でしたが、ミトコンドリアというエネルギー工場を有効に利用することで、その後より高等で複雑な生命機能を営む生物へと進化していったのです。

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