細胞レベルでみる肥満

ヒトは約60兆個の細胞から構成されていますが、脂肪細胞の数は約300億個と推定されています。ヒトの脂肪細胞は一定の大きさで単房性の脂肪滴をもつため、核は細胞膜に接触した形で平らに変形しており、平均直径は約60〜90μmです。しかし、こういった脂肪組織の形態は肥満になると劇的に変化します。

脂肪細胞は肥大化する

肥満のヒトの場合、脂肪細胞の直径は最大140〜150μmまで肥大化すると言われています。この肥大化により体積は3倍にまで増大します。体重が100kgを超えた肥満者においても150μmを超す脂肪細胞は認められないことから、肥満形成には脂肪細胞自体の増加が必要になるということがわかります。計算上では、体重115kgの肥満者で脂肪細胞数は2倍の600億個になると考えられています。

その機序においてマウスを用いた実験で、まず脂肪細胞のサイズが増大し、直径が140〜150μmに達した後に脂肪細胞数が増えることが明らかにされています。増加した脂肪細胞はまた肥大し、そしてまた数が増えていく…といった具合に肥満形成が生まれます。脂肪細胞の肥大化は、細胞内に蓄積している中性脂肪量に依存します。

いったん過剰なエネルギーを蓄えて肥大化した脂肪細胞は、単に細胞の肥大化にとどまらず、形質が大きく変化すると考えられています。

アディポサイトカインの発現

肥満細胞からは特定の生理的調節機能に作用する生理活性物質が分泌され、糖質や脂質代謝などエネルギー代謝の恒常性に役立っていますが、肥大化した脂肪細胞においては、その働きを担うレプチンやアディポネクチンが抑制され、糖尿病や高脂血症と関連するTNF-αやレジスチンなどの分泌が促進してしまいます。また、インスリン感受性を亢進させるアディポネクチンの分泌低下により肝臓や骨格筋などの他臓器においてインスリン抵抗性が憎悪し、生体の糖代謝の恒常性を破綻させると考えられています。

逆に脂肪細胞の小型化によりインスリン感受性が亢進することが分かっています。細胞のサイズによる炎症性サイトカインやアディポサイトカインの発現や分泌の制御には、肥満によって生じる全身のインスリン抵抗性がインスリン分泌を誘導し、過剰なインスリンが脂肪細胞での炎症性サイトカインやアディポサイトカインの発現や分泌を変化させ、さらにこのアディポサイトカインの変化がさらなるインスリン抵抗性を誘導することで、肥満病態が形成され悪循環になる可能性が推測できます。また、脂肪細胞を培養して肥大化させた実験においては、脂肪細胞が自律的にこのようなアディポネクチン抑制、炎症性サイトカイン発現の誘導を行っているという結果も出ています。

したがって、脂肪細胞の肥大化により、その環境と脂肪細胞そのものが肥満を亢進、健康の阻害を行っていると考えることが出来ます。
たかが肥満されど肥満、これを良しとするかは自分次第ということですね。

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