前庭感覚情報と平衡維持

前庭器官の耳石器は重力の向きに関する情報を提供し、半規管は頭部の回転速度を検出します。そのため、前庭感覚情報は、神経系に身体が重力に対してどの程度傾いているかという情報と、その揺れは前方向か後方向か横方向かという情報を伝えます。

前庭感覚シグナル

重力に対する身体の角度についての体性感覚情報と前提感覚情報を組み合わせることで、重力や他の慣性力に対して身体を適切に定位することが可能となります。

例えば、自転車に乗って円形の道を高速で走行する人が平衡を維持するためには、重心と向心力に対して身体と自転車を適切に定位する必要があります。

体性感覚入力とは異なり、前提感覚シグナルは、平衡反応の適時性にとって必須というわけではありません。前庭感覚シグナルは、重力に対する身体の定位についての情報を提供することにより、姿勢反応の方位調整に影響を及ぼしています。前庭感覚のシグナルが欠如したヒトや実験動物の回転運動や支持面の傾きに対する姿勢反応は、正常な反応とは逆になります。

前庭感覚シグナルを失った実験動物は、傾きに抵抗する代わりに、身体を積極的に下方に動かします。対照的に、支持面の直線運動に対する反応の方位チューニングと潜時は適切です。
つまり前庭感覚情報の欠落は、傾きに対する反応は困難にさせるにも関わらず、直線運動に対する反応には影響は及ぼさないということです。

身体を転倒させる主な力は重力

これは神経系が垂直方向を決定する仕組みに隠されています。
身体を転倒させる主な力は重力です。

支持面が傾いたとき、健常者は直立位を維持するために前庭感覚情報を用いて重力に対して適切な定位を保持します。これに対して、前庭機能を喪失した被験者は、体性感覚入力を用いて支持面に対して定位を行うため、支持面が傾けば転倒します。

しかし、直線運動の場合は、鉛直線と支持面の垂線とが同一直線上にあるため、体性感覚シグナルがあれば姿勢反応の修正を計算することができます。
視覚入力もまた垂直の基準を提供しますが、視覚情報処理は非常に遅く、素早い傾きに対する自動的姿勢反応には寄与することができません。

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