姿勢制御筋の方向特異性について
協調的な運動、または協調運動とは、身体にある多数の関節と筋の正確な制御により起こる、「異なる組み合わせで関節を可動し、同じ目的を達成させる方略」といえます。
このため、この仕組みは非常に複雑に制御されています。
こうした冗長で自由度の高い働きがあるからこそ、歩行中に障害物を避けるために歩行パターンを変化させるなどといった柔軟性がもたらされますが、脳にとっては負担が大きくなるといえます。
運動指令の計算には、重力などの外力の影響や、運動中に身体の一部位が他の部位に及ぼす力など多くの要素を勘定に入れなければなりません。
実際に突然の外乱に対する姿勢反応を脳が計算するときには、これらすべての要素が考慮されますが、この計算には時間制限という制約がつきます。
一定の時間内に姿勢制御反応が起こらなければ、平衡が崩れてしまうためです。
これまでこうした反応において脳は、複数の筋を一緒に活動させるといった方法でグループ化させることで制御を単純化させていると考えられてきました。
その中で、筋は常に同時に動員されるというのが定説でしたが、実際には、それぞれの筋には方向特異性があり、例えば右方向への運動では活動して、それ以外の運動では抑制されるといったような特性があることがわかっています。
さらに同一方向の運動で活動する筋でもその重なり合いは異なり、方位磁針で例えると、東方向への運動で活動する筋のうち、東南東に重きを置く筋もあれば、南南東や東北東もあるといった違いがあります。
しかし姿勢制御で共同収縮が行われないということではなく、同一方向の重なる領域が共同収縮を行い、またそれは地面に対して別方向への力を生じさせ、その方向に反応する筋が共同収縮をするという方法で姿勢が最適化されます。
したがって、各筋の共同収縮は他の筋を活動させるスイッチとなり、1つの筋は複数の共同収縮に関与していることになります。
そしてこれらは時間制限という制約の中で同時多発的に行っており、これが複雑な筋活動パターンとして観測されます。
このことから、姿勢制御は筋収縮に依存するのではなく、地面と足の間で生じる力や地面の傾きと反力の方向などといった、運動に関連した変数に依存すると考えられています。
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