糖化による神経脱髄と慢性神経痛の関係性

AGEとは終末糖化産物(Advanced Glycation End Products)、すなわち「タンパク質と糖が加熱されてできた物質」のこと。
強い毒性を持ち、老化を進める原因物質として注目されています。
老化というとすぐに思い浮かぶのは、お肌のシミ・シワや認知症などかもしれませんが、それだけではありません。
AGEが血管に蓄積すると心筋梗塞や脳梗塞、骨に蓄積すると骨粗しょう症、目に蓄積すると白内障の一因となり、AGEは美容のみならず、全身の健康に影響を及ぼしていると言えます。

「タンパク質と糖が加熱されてできた物質=AGE」

血中のブドウ糖が過剰になってあふれ出すと、人間の体の細胞や組織を作っているタンパク質に糖が結びつき、体温で熱せられ「糖化」が起きます。
こうして「タンパク質と糖が加熱されてできた物質=AGE」ができるのです。
体内のタンパク質が糖化しても、初期の段階で糖の濃度が下がれば元の正常なタンパク質に戻ることができます。
しかし高濃度の糖がある程度の期間さらされると、毒性の強い物質に変わってしまい元には戻れなくなります。

実はAGEは神経内の神経周膜をはじめとして、神経内血管、神経線維等広範囲にも沈着していきます。
AGEが原因での神経障害の成因としては、神経線維自身の糖化と血管壁糖化による虚血、および酸化ストレス増大、それらに対する細胞生物学的反応の面から考慮する必要があります。

糖尿病の場合、糖化が進むとAGEが神経伝達物質の輸送障害、軸索萎縮をもたらす。

糖尿病の場合、高血糖の結果、末梢神経組織の多くの成分が糖化を受けることになります。
特に、寿命の長いコラーゲン等の基質蛋白や神経線維での髄鞘(以下ミエリン)蛋白、軸索骨格蛋白等が糖化を受けやすいとされています。
さらにミエリン蛋白のAGE化はマクロファージを活性化させ、サイトカイン合成、分泌を誘導させ、さらに貧食を促進していきます。
この機構が糖尿病神経でみられる脱髄促進と関連する可能性も高いと報告されています。
また、軸索内微小管の主要蛋白であるチュブリンの糖化も糖尿病ラットで起こることが証明されています。
この微小管は軸索輸送のレールの役目を担っていることから、チュブリンの糖化は微小管の形成を阻害し軸索輸送を障害する原因と考えられています。
特に軸索輸送の障害は神経伝達物質の輸送障害、軸索萎縮をもたらす原因として重要なものになってくるでしょう。

恐ろしい神経・血管の糖化

神経が正常に存在する、つまり軸索の伸展、維持および径を規定するものとして重要な因子に「ニューロフィラメント」があります。
ある研究によると、糖尿病ラットおよび糖尿病患者切断肢から採取した末梢神経組織でAGEのペントシジン(リジン残基とアルギニン残基が五炭糖により架橋された構造を持つAGE)の蓄積をみていると報告されています。
つまり糖尿病末梢神経組織は透過されているということ。
末梢神経組織であるニューロフィラメントの糖化は軸索輸送の障害から、軸索萎縮を起こし末端性変性を導くものとなり、さらに神経再生の障害の原因ともなっているのです。
また神経線維や血管壁を支えるマトリックス(基質)蛋白であるラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン等の糖化は、神経の微小環境の変化をもたらすと考えられています。
その結果、血管ではシェアストレスの増大、透過性亢進が起こり、また神経内浮腫、神経内圧の亢進が生じることになります。
したがって、神経線維の圧迫性障害あるいは血管壁圧迫から虚血が起こることになります。

糖化による脱髄や神経変性は慢性の神経痛を表出することにもなりかねない。

ヒト糖尿病では形態学的にも神経線維基底膜の硬化がみられ、物理的障害を受けやすい状況となることもわかっています。
その結果、神経線維は脱髄や軸索変性を起こし、さらには線維脱落へと至ることになるのです。
また培養条件下で糖化ラミニンは神経細胞の突起形成を抑制することも証明されているので、これはマトリックス成分の糖化は軸索伸展を阻害することにもなり、神経再生異常を起こすことに繋がることがわかっています。

脱髄現象が起き、わずかな刺激にも敏感になり、軸索や神経細胞膜は機械的および化学的刺激に対して極めて鋭敏に痛み反応を引き起こしますが、一般に末梢神経は結合織性の被膜に覆われているため、単なる圧迫では痛みは生じないと考えられています。
一般に軸索突起(神経線維)が30mmHg以上の圧で圧迫されると、神経伝達物質を運ぶ軸索流という物質の運搬が停止し、圧迫が長く続くと圧迫部位より遠位にある神経線維が死滅、変性と再生が起こります。
これが側芽となり機械的刺激に反応するようになります。
糖尿病の影響で軸索の被覆組織である髄鞘が消失し、電線である軸索が部分的に露出する脱髄という現象が生じ、これが原因でむき出しになった軸索突起が刺激され慢性的な神経痛の症状として表出するということも考える必要があります。

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