中枢パターン発生器とは

運動における大脳皮質の貢献は、運動出力の生成そのものに対してはさほど高くないと解釈するのが妥当とされていますが、一方で歩行中の反射感受性の調節には高位中枢からの入力が重要であるといわれています。

脊髄反射応答は、運動の形態や種類に応じた課題依存性(task-dependency)、周期運動の位相に応じた位相依存性(phase-dependency)という性質を持ちます。
前者の例を挙げると、後脛骨神経を電気刺激することで得られるヒラメ筋の単シナプス性反射であるH反射は、立位時と比較して歩行時に減少し、走行時には反射応答がさらに小さくなると報告されています。
この結果は、反射感受性は運動の形態や課題の困難度に応じて中枢性に合目的的に調節されることを示しています。

また、後者の位相依存性に関しても興味深い報告があります。
歩行運動中のヒラメ筋と前脛骨筋の筋活動の振る舞いは、完全な相反関係を持つ一方で、立脚期初期には双方の筋の伸張反射感受性が共に亢進します。
この位相には筋活動が現れない前脛骨筋の反射感受性が高まる機序は、高位中枢由来の入力であることが明らかになっていて、このような神経制御様式は、着踵時の不安定な局面で屈筋、伸筋双方の興奮性を高めることで関節の安定性を高める機能的役割を持っているものと考えられます。

つまり、この脊髄反射応答そのものはステレオタイプな活動にはなりますが、高位中枢からの入力は必要に応じて反射感受性を変調させることが可能で、とりわけ歩行中には環境や運動周期に応じて合目的的に調節されていると考えることができます。

ヒトの歩行運動では、運動に参画する多数の骨格筋の協調的な制御を必要します。
ネコやイヌの脊髄を上位中枢から切り離した後でも後肢に屈筋-伸筋の周期的な筋活動とステッピング運動が発現することは良く知られている話です。
脳からの命令なしに歩行が可能である、という事実は一見驚くべきことのように思われますが、高次の脳機能を持たない下等動物であっても移動運動を実現していることを考えれば、これらの運動が脊髄レベルの制御で実現されていることは容易に想像できます。

脊髄に内在する中枢パターン発生器(central pattern generator:CPG)は、上位中枢と脊髄運動ニューロンの中間に位置し、歩行運動の基本となる屈筋-伸筋間の周期的な運動出力を脊髄運動ニューロンに与えていると考えられています。
そして見方を変えると、このCPG は運動出力の発現という直接的な役割だけでなく、歩行動作に関する詳細な運動指令を個々の効果器に逐一与えなくても良いという点で、高位中枢の労力を緩和させる重要な機能的役割を持つものと考えられています。

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