筋のテンションとトーン

ヒトの姿勢や動作は、骨格や筋膜、関節を支持し、てこを働かせる筋系の意識的あるいは無意識的なテンション（張力）によって生み出されています。神経からのインパルスにより筋が部分的に収縮することで筋トーン（緊張）が引き起こされ、テンションが生じます。この部分的に収縮した状態が、姿勢や動作の基礎となります。

筋は脳からの指令を待っている弛緩状態でも活動が停止しているのではなく、1日を通じて様々なレベルで部分的に活動しているのです。姿勢やポジション（肢位）を変えたり動いたりすると、ある筋はリラックスして伸張し、またある筋は収縮したり短縮し、その他の筋の長さは変化しないが、支持や安定化の役割を果たすためにテンションが亢進したり低下したりします。意識的あるいは反射的な活動は、ともに神経インパルスを増減させ、動作パターンや姿勢を司る筋活動の枠組みを生み出しています。

ヒトは、ある動作パターンや姿勢を繰り返すことで、筋系における血液の循環やグリコーゲンの貯蔵、組織の収縮力などを改善するのと同時に、モーターコントロールに関与する神経系の構成要素も改善しています。

最も基礎的なレベルでは、すべてのエクササイズが筋のトーンやテンションに良い影響を与え、動作のモーターコントロールが効率的に作用するようにデザインされています。的確な筋トーンとテンションにより、適切なアライメントを維持しながら立ったり動いたりすることが可能となり、効率の悪い筋活動によるエネルギー損失がない効果的な動作や素早い反応が行えます。

日常生活では、座位の多い生活と不完全なエクササイズが組み合わさることで非常に効率の悪い動作パターンが身についてしまっています。

痛みがあることで、筋のトーンやテンションが亢進し、モーターコントロールが変化する問題も同時に起こります。うまく動けないのは、関節炎のためなのか、あるいは長年にわたる動作機能不全やアライメント不良、剪断力などによる退行変性のためなのか、考えることが重要です。

身体的、心理的なストレスも筋トーンやテンションの問題の原因になりえます。可動性や柔軟性に制限がある場合、ある肢位や動作で筋トーンは必要以上に亢進します。これにより関節の動きが制限されたり、関節のアライメントが悪くなることで動作が制限されることになります。

バランスや安定性、モーターコントロールが制限されると、筋トーンとテンションが低下する可能性があり、反応の遅延やタイミングの悪さ、協調性の低下へと繋がります。動作を観察する際には、交感神経系と副交感神経系を司る自律神経系を常に考慮しなければなりません。