「うまく動くために自分の動きをイメージしてみようね」とトレーニング指導のなかでもよく使うような言葉です。
ここでいうボディイメージというように、身体は大脳皮質に身体部位再現として表出されています。
この身体部位再現は、環境世界との関係性の変化に準拠して改変されていくもの。
環境世界は常に変化しそれに適応していくためには、脳は自らの身体再現を再編成していく必要性が生じます。
こうした大脳皮質における情報の組み替えを「脳地図の再組織化」と呼んでいます。
そして、脳地図の書き換えは認知過程の改変の結果として生じるものということがわかっています。
認知過程とは、知覚、注意、記憶、判断、言語の領域。
この認知過程の改変により、脳は再生し身体部位再現が変容していきます。
認知運動療法と多重感覚処理ニューロン
近年、大脳皮質の運動野や感覚野における身体部位再現が単一ではなく複数であること、またその再現特性は解剖学的配列ではなく、外界との相互関係に応じた機能的なものであることが神経生理学研究によって明らかにされています。
例えば、感覚野の解剖学的なホムンクルスと呼ばれる皮膚知覚体は第3野に存在していますが、そうしたある意味で物理的な身体部位再現はごく一部に過ぎず、その後方の1野、あるいは2野の手の感覚野には物体と手の握りという機能的な相互関係に対応して活動するニューロンが多いことがわかっています。
また、頭頂葉連合野である第5野には両手動作時や自己の身体に触れたときに活動するニューロン、あるいは触覚と運動覚の両方の刺激に反応するニューロンが存在していることも報告されています。
第7野には自己の身体空間や身体スキーマ、道具使用に関連するニューロンなど、外界との接触状況や経験に応じて可変的に活性化するニューロンが多数発見されていることも面白い点です。
これらは、視覚、体性感覚、聴覚といった複数の異種感覚情報変換を行う多重感覚に反応する認知ニューロンであるといわれています。
さらに角界と呼ばれる第39野、40野ではそうした認知ニューロンが他者の動作の模倣や言語の意味を理解するコミュニケーション機能を有していることも判明しています。
この体性感覚中枢である第3野から頭頂葉連合野へ、そして角界へと至る神経回路網には、自己の身体と外界との相互関係に対応して情報処理を複雑化していく大脳皮質の階層性があるということ。
だからこそ、運動療法の各種課題と適応順序を考える場合、この情報処理の複雑性を考慮した設定にすることが大事になってくるわけです。
あらためて、身体って本当に繊細にそして複雑な設計で動いていることがわかります。