ハムストリングス肉離れの発生危険因子に関しては多くの研究報告があり、内的危険因子として筋力の低下および筋力のアンバランス、ウォーミングアップ不足、疲労の蓄積、柔軟性の欠如、など様々な原因が挙げられますが、今回はメディカルチェックでも評価する既往歴との関係性について考えてみます。
既往歴の有無は肉離れ受傷の大きな危険因子である。
ハムストリングス肉離れは再発率が高いことから、既往歴の有無もまた肉離れ受傷の大きな危険因子であると報告されています。
前回の受傷後に形成された瘢痕組織の存在による筋長や筋収縮機能が変化すること、および不十分なリハビリテーションによる筋機能低下が再発の原因であると報告されています。
また、ハムストリングス損傷による神経適応が起こり、ハムストリングスおよび大殿筋の筋活動の発火パターンに変化を起こすことが再受傷のリスクとなる可能性を示唆した報告もあります。
Jonhagenらの研究では、ハムストリングス肉離れ既往歴のある陸上短距離選手は、健常な選手に比べてハムストリングスのタイトネスが有意に高く、また既往歴のある選手は伸張性収縮筋力および低速度での短縮性収縮筋力が弱いと報告しています。
またBrockettらの報告では、ハムストリングス肉離れ既往歴を有する選手の患側と健側の至適筋長を比較したところ、伸張性収縮および短縮性収縮時の両側の筋張力に両脚間で差が無いのに対し、患側におけるピーク張力発揮時の至適筋線維長が短いと報告されています。
一般的に、筋の長さ-張力関係における下降域(descending limb)では外的伸張力による筋損傷が発生しやすいと言われています。
至適長に達する時の筋線維長が短いことは、張力発揮に利用される筋線維の多くがdescending limbに含まれることとなり、より伸張性負荷に弱い状態となると考えることができます。
また、至適筋長が短い選手は筋損傷を起こしやすいという報告も多く存在します。
このことから、Brockettらの報告では、「ピーク筋張力発揮時の至適筋長が短いことは、筋力差よりもハムストリングス肉離れの大きな発生危険因子である」と結論付けられています。
このような健側・患側間の筋力の差や至適筋長の短縮化が、ハムストリングス肉離れ受傷を起因とする変化なのか、元々受傷リスクの高い選手の持つ危険因子なのか特定は難しいと考えられています。
いずれにせよ、ハムストリングス肉離れの再発率が高いことから、ハムストリングスの既往歴が肉離れ発生を誘発する大きなリスクファクターであるということはできるでしょう。
予防のためのコンディショニングに関してはこれらのリスクファクターに対する包括的な対処が必要である。
先に述べたように、内的危険因子として筋力の低下および筋力のアンバランス、ウォーミングアップ不足、疲労の蓄積、柔軟性の欠如など様々な要素が複雑に影響を及ぼし合うことで、ハムストリングスの肉離れは発生すると考えられています。
そのため、予防のためのコンディショニングに関してはこれらのリスクファクターに対する包括的な対処が必要となります。
筋力低下・筋力のアンバランス、ハムストリングスの筋力不足、またはハムストリングスと大腿四頭筋の筋力比(H/Q 比)の低下が肉離れ受傷に関与すると多くの研究によって報告されています。.
一方でHoskinsらは、筋力比の異常が筋損傷の結果によるものなのか、受傷の原因なのか、それともその両方なのかは明らかでないと指摘している一方で、現在の肉離れ予防のコンディショニングにおいては競技種目に見合った適正な筋力比の確保、運動動作に適応した伸張性収縮筋力の強化、さらにはハムストリングスと大腿四頭筋の収縮・弛緩の協調性、股関節・膝関節周囲筋の運動連鎖など、神経筋協調性の向上が必要と報告しています。