ヒトは水分を除くとほとんどタンパク質でできています。したがって、食事においてもタンパク質を欠かすことはできません。もしタンパク質含量の少ない食事を続けるとどうなるのかを考えてみましょう。
カロリーは適切ですが、タンパク質含量の少ない食事を摂取すると、尿素やその他の酸の排泄量が減少していきます。尿酸排泄量は約50%減少しますが、クレアチニンの排泄量はほとんど変わりません。クレアチニンとは、タンパク質の代謝産物であり、尿細管における再吸収・分泌を受けることなくそのまま排泄される物質です。したがって、尿中に出てくるクレアチニンや約50%の尿酸は通常時においても、タンパク質摂取量と無関係な要素に由来していると考えられます。
タンパク質節約効果
タンパク質ばかりでなくカロリーの摂取も不足すると、生体内のタンパク質がエネルギー源として分解されますが、グルコースを与えると、このタンパク質分解は著明に抑制されます。この抑制効果は、主としてグルコース投与の結果生じるインスリン分泌の増大であると考えられます。また、比較的少量のアミノ酸の投与でも、タンパク質節約効果が生まれます。
脂質もまたタンパク質節約効果を示します。飢餓状態が長く続くと、脂肪から生じたケト酸は脳やその他の組織で使われます。これらケト酸の筋での代謝補助因子は、分岐鎖アミノ酸と共通しているため、脂肪由来のケト酸の利用度に応じてこれらアミノ酸の分解を防止されます。全面的な飢餓の時、酸化分解されるタンパク質はほとんど肝臓、脾臓、筋に由来するものですが、心臓や脳のタンパク質も少量使われます。また体内の中性脂肪は急速に分解されていき、ケトーシスもみられるようになります。貯蔵脂肪が消費され尽くすとタンパク質分解はさらに急速に増大し、最終的には死に至ります。このようにタンパク質摂取は重要なものになります。
DNAの遺伝情報とタンパク質
すべてのタンパク質は、DNAに記録されている遺伝情報をもとに合成されます。タンパク質の合成は、核でDNAの遺伝情報がRNAに転写され、さらにリボソームでRNAがタンパク質へ翻訳されていくセントラルドグマと言われる一連の流れによって起こります。タンパク質合成についての研究が進む一方で、分解についての研究は、ごく最近になって注目されるようになり、飛躍的に進展したのはここ10年だと言われています。
細胞内にはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が存在し、それらが分解を担う主要な役割を持ちます。一般に、生体の組織を構成するタンパク質は、一方では一定の速度で合成され、他方では一定の速度で分解されており、常に新しいタンパク質が置き換わっています。筋線維においても、筋構成タンパク質は絶えず合成され、かつ分解されており、一般的には数ヶ月で入れ替わると言われています。健常な状態の筋で、見かけ上大きさの変化がないように見えるのは、筋構成タンパク質の合成と分解とが、同程度の速度でかつ同程度の量行われているからです。したがって、筋肥大は筋構成タンパク質の合成量が分解量よりも多くなり、その結果、トータルの筋構成タンパク質が増加している状態であるということです。
タンパク質の合成・分解
機械的刺激の質や量の変化により、筋線維が太さを変える際にも、前述したような筋構成タンパク質の合成と分解のバランスによる相対的な筋タンパク質の量の変化が起こっています。筋線維に加わる機械刺激は、まず筋細胞膜にあると考えられている機械刺激受容体で受容されます。受容された機械刺激の情報は、細胞内の細胞内情報伝達分子に伝えられ、核内のDNAへと伝わり、RNAの転写が起こります。転写されたRNAはリボソームでタンパク質に翻訳され、最終的に合成されたタンパク質が必要な場所で形作り、アクチンやZ線などの構造物が形成されます。つまり、機械刺激が増加すると特定の細胞内情報伝達経路が活性化し、筋構成タンパク質合成が促進、あるいは筋構成タンパク質分解が抑制されます。その結果、筋線維が太くなると考えられています。逆に機械刺激が減少すると、機械刺激による細胞内情報伝達分子が不活性化し、筋構成タンパク質合成が抑制、あるいは筋構成タンパク質の分解が促進されてしまいます。その結果、筋が細くなると考えられています。