平衡感覚の受容器である三半規管や耳石器からの情報は、経核、舌下神経前位核、前庭小脳などで構成される神経積分器の一種である「neural store」に入力しています。 この「neural store」には前庭系からの入力以外に、体性感覚情報(深部知覚情報)や視覚情報も入力していることがわかっています。 これら3つの感覚情報が「neural store」で統合処理されて平衡感覚が保たれているのです。 前庭神経核から入力を受ける前庭視床は、「頭頂―島前庭皮質(PIVC)」や「VIP 野」など複数の大脳皮質領域に前庭感覚情報を送っています。 また海馬にも前庭系からの入力があることがわかっています。 一方、末梢前庭系においては加齢に伴う変性と萎縮は耳石、有毛細胞から前庭神経まで前庭器全体に及ぶと言われています。 半規管動眼反射の利得は、低周波数領域については高齢者でも比較的保たれますが、高周波数領域については80歳を超すと徐々に低下すると報告されています。 また眼では調節力の低下、網膜感度の低下などが生じることになり、深部知覚情報も加齢により変化を受けることになります。 特に高齢者では、深部知覚情報に対する依存度が高まる傾向を示すため、この変化は非常に大きな影響を与える因子になります。 「neural store」を構成する小脳のプルキンエ細胞のニューロン数に関しては、加齢による変化を認めないという報告がありますが、しかしながら細胞体の体積は加齢により減少すると言われています。 「PIVC」 や「VIP野」に障害が生じると、垂直位の偏倚、半側空間無視などの空間識障害などが生じるといわれており、これは高齢者における「めまい・平衡障害」となり、転倒のリスクファクターになります。 高齢者においては、生活習慣病などの全身疾患の合併もしだいに多くなるなどの理由により、めまい・平衡障害の病態は末梢前庭系や中枢前庭系のみならず、多モダリティ感覚領域や出力系である筋肉を含む“平衡維持システム”全体の障害としての理解が必要と言えるでしょう。 こと高齢者においては出力系である筋肉にもサルコペニアが生じるるため、これに対しては「レジスタンストレーニング」いわゆる「筋トレ」が推奨されており、感覚入力-統合能力の改善とともにトレーニングすることにおいて筋力を改善することは転倒リスクのマネジメントとして非常に有意義なものであることがいえます! だからこそ、高齢者にこそトレーニングの必要性がでてくると言えるのです。