L-カルニチン摂取が突然死を防ぐ可能性|フィジオ福岡 リスク対策

健康のためと称して始めたはずの運動によって命を奪われてしまうという不幸な運動中の突然死。
実際にその報告は後を絶たないのが現状です。
運動したせいで、不健康に、最悪の場合死に至るというケースがあるのは我々としても非常に恐ろしく思いますし、しっかりと管理していくことが必要なものであります。

なぜ健康のための運動が悲劇を生むのか?

こうした運動中の突然死の原因として知っておかなければいけないこととして、心臓の器質的疾患以外の要因も多く存在します。
空腹時の運動は不整脈を誘発しその原因として「遊離脂肪酸」濃度の上昇が報告されて以来、「脂肪酸」は心筋のエネルギー基質であると同時に、心筋障害のリスクファクターとされるようになってきています。
実際に「脂肪酸」は細胞内ミトコンドリア由来のアポトーシス(多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死)をも誘発するといわれています。

ルメートルら(2010)は、疫学研究結果から急性心停止(Sudden cardiac arrest : SCA)のリスクファクターとして細胞膜を構成するリン脂質の脂肪酸組成の中から3つの脂肪酸(パルミチン酸・オレイン酸・パルミトオレイン酸)を提示しました。
その機序については不明としていますが、生体内の脂質脂肪酸組成には遺伝的要因も強く影響していることから、心筋障害のリスクは脂肪酸組成を決定付ける遺伝的背景によって生じることになると考えられています。
また研究結果の中には、「脂肪酸」の習慣的過剰摂取によって心筋梗塞や心不全など重篤な循環器系疾患の発症に至るリスクが高まるとの報告が散見され、食習慣の影響も議論されているところです。
急性心停止にまでは至らないケースであっても、過剰脂肪酸と不整脈には一定の関係性が示されていることも事実になります。

空腹時の運動では血中遊離脂肪酸濃度の上昇が観察されると同時に不整脈が観察されることが多い。

条件によっては、一過性の過剰脂肪酸による不整脈の誘発が示されるとする報告も存在しています。
すなわち、空腹時の運動では血中遊離脂肪酸濃度の上昇が観察されると同時に不整脈が観察されるというものです。

小野らが行った研究では、56才男子と20才女子の2名に栄養状態を異にする条件下で運動を負荷し静脈中の遊離脂肪酸濃度がどのように消長するかを検討した報告を行っています。
その結果、静脈血中パルミトオレイン酸濃度が急増した時には不整脈が観察され、そうでない時には見られなかったと報告しています
また、目覚めの食餌を低糖食とした時での空腹時には、パルミトオレイン酸の急上昇による不整脈を発生しやすいと考察を加えて報告しています。
これらは空腹状態で運動すると、脂肪酸の濃度が上昇し不整脈発生のリスクが高まるということを示唆しているデータになります。
心筋細胞に限らず細胞の内と外とは細胞膜で仕切られていて、血中脂肪酸濃度が上昇したことが心筋細胞内脂肪酸含量にどう影響するのかは理解しておく必要がありそうです。

脂肪酸の供給自体はたいへん重要なエネルギー供給源である。

脂肪酸が心筋のエネルギー源として利用される割合は、生理的条件下でおよそ60-90%とされ、脂肪酸の供給はたいへん重要なエネルギー供給源とされています。

この細胞外からの脂肪酸取り込みに作用するのが、「脂肪酸トランスロカーゼ /CD36(FAT/CD36)」とよばれる脂肪酸輸送担体になります。
「FAT/CD36」は心筋細胞に強発現していて、さらに心筋収縮によって細胞膜上への移行がより高まることから、細胞外の長鎖脂肪酸を積極的に取り組むことが可能とされている輸送担体です。
その他、「FABPPM (plasmamembrane fatty acid binding protein)」や「FATP(fatty acid transport protein)」といった種々の脂肪酸輸送担体の存在が報告されています。
「FAT/CD36」の発現は、心臓疾患の発症抑制、心筋虚血への耐性、持久的運動能力の維持等に貢献する一方で、結果的に心筋ミトコンドリアへの脂肪酸の相対的過剰供給を生じる可能性も考えなくてはなりません。

脂肪酸は、ミトコンドリア内膜に作用して膜透過性遷移を誘導することになります。
ミトコンドリア内膜と外膜との接触部位のミトコンドリア膜透過性遷移孔と呼ばれる穴構造が開放され、脂肪酸とミトコンドリアが反応していきます。
簡単にいえば、この反応によって、ミトコンドリアはストレス状態に陥ることになるということになります。
それはミトコンドリア膜電位の消失を意味して、さらにはミトコンドリアの膨潤を生じることになり結果としてミトコンドリアのアポトーシス(細胞死)が誘導されることになってしまいます。

この突然死を予防するとされているL-カルニチン

注目すべき研究結果としていま期待を集めているのが、L-カルニチンです。
L-カルニチンには単なる脂肪酸β酸化亢進作用だけではなく、β酸化亢進とは関係しないミトコンドリア内膜安定化作用が存在する可能性、つまりミトコンドリア膜透過性遷移を抑制できる効果が期待できると考えられています。

サプリメントとしてのL-カルニチン摂取やL-カルニチンを多く含む食品の積極的な摂取は、脂肪酸由来の急性心筋障害に対して有効な予防効果を発揮する可能性が考えらているのです。
ダイエットサプリメントとしてのL-カルニチンの効果は、高い脂肪燃焼効果(β酸化必須ペプチド)としての評価が主でありましたが、近年この心筋保護作用が支持されたことで高濃度のL-カルニチン摂取は、心筋細胞の機能維持にとって重要な意味をもつものになっていくのかもしれません。
引き続き、注目していく栄養素になりますね。

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