顎関節には関節窩と関節骨頭との間に関節円板があります。
睡眠中にぼんやりと口を開けた状態での受動的な開口では、関節円板と関節骨頭との間での骨頭回転運動のみが起こり、関節の回転運動軸は移動しません。
一方、あくびや抜歯などで意識して大きく開口した状態での能動的な開口運動では、関節円板と関節骨頭との間で起こる骨頭の回転運動と関節窩と関節円板との間で関節円板が前方に滑る運動が同時に起こり、関節の回転軸が前方に移動します。
特徴
(1)顎関節は正常可動域内でも不全脱臼型を呈します。
(2)関節包を破ることなく脱臼します(関節包は、外側靱帯とともに緩く伸張するため)
(3)比較的女子に多いです(解剖学的に男子より関節窩が浅いため)
(4)前方に脱臼することが多いです。
(5)習慣性脱臼や反復性脱臼になりやすいです。
前方脱臼
極度の開口時(あくび・嘔吐・抜歯など)に、関節頭が関節結節を越え、前方に転位し、外側靱帯・咬筋・外側翼突筋の牽引により固定されます。
この機序で発生したものには両側脱臼が多く、開口時の衝突、打撃などの下顎側方からの外力で発生するものがあり、片側脱臼となる場合が多いです。
症状としては、患者は口を開いたまま閉口不能で、唾液は流出し、咀嚼・談話不能となります。
しかし反復性の脱臼に移行した症例では談話が不自由程度のものもあり、下顎歯列は上顎歯列の前方に偏位し、耳の前方に陥凹した関節窩を触れ、関節頭は頬骨弓下にあり、陥凹した関節窩の前方に触知します。
弾発性固定が明らかで、頬は扁平となり、関節窩は空虚となります。
片側脱臼の症状は、両側脱臼ほど著名でなく、半開口で口の開閉はわずかに可能で、オトガイ部は健側に偏位し、患側の耳孔前方に陥凹を触知します(機能障害は両側脱臼と同様です)
整復法としては、一般的に使われるヒポクラテス法・ボルカース法・口外法があります。