横隔膜といえば「呼吸」に関係があることはわかると思います。呼吸とは単純に、「横隔膜が収縮するから肺が膨らみ空気が入り、リラックスして元の形に戻ると肺から空気は押し出される」と思われています。しかしながら横隔膜の機能を深く捉えてみるとそれだけじゃないかもしれません。横隔膜は胸部と腹部を隔てる壁として独立して動く「筋肉」と考えるよりも、実際は肺と内臓と「組織」としてくっついて、連動して動き、まるで綱引きの綱のように胸部と腹部にそれぞれ引っ張られるものと考えたほうが感覚として正しいのかもしれません。もちろん横隔膜の「筋肉」としての働きも非常に重要な役割を果たしますが、胸部・腹部からの影響もかなり受け、上手く行けばそれらに助けられ、下手をするとそちらの影響から最大限にチカラを発揮できないことだって十分考えられます。
横隔膜の呼吸機能
肺の収縮では、肺の組織そのものの弾性が実は空気を吐き出すメインの原動力になっています。そしてその肺そのものの弾性力がなかなかに強いため、横隔膜はむしろ逆に遠心性収縮を起こして、その収縮の勢いを弱めさせる働きも担っているのです。これが強く息を吐き出す時においては非常に大切な役割になります。呼吸は横隔膜だけが頑張って働いてるわけではないということ。もっと言うと、筋肉だけが呼吸を起こす原動力になっているわけではないのです。実は他組織の弾性力、いわゆる元に戻ろうとする力や、骨格そのものが動くことによって変形する空間等の全部あわせての「呼吸」と考えるのがいいのかもしれません。
この「呼吸運動」。細かく追求すると物凄い複雑でちょっと困っておりますが、コアのスタビリティーを考える上では大変重要なのはわかります!普段のトレーニングにおいても意識するだけで、かなり違った感覚で身体を操作できるようになると思います。
姿勢安定化という役割
先に述べたように横隔膜は、呼吸の機能の役割がありますがもうひとつ姿勢安定化という役割もあります。Lewitは、健全な呼吸パターンが実行されない限り、他のいかなる運動パターンも健全ではありえないと示唆しています。Lewitは、適切なパターンで呼吸できない人は、横隔膜が姿勢安定筋として働くためのコーディネーションや持久力および筋力が不足している可能性が高いと考えました。Lewitの研究に基づくと、呼吸は、運動能力の向上に必要な基本能力であると考えられ、まず、効率的な呼吸パターンの獲得を優先する必要があります。
また、横隔膜の活動が体幹の安定性を補助しています。横隔膜のコントロールを最適化する呼吸パターンは、コアスタビリティにとって基本的に重要であることを意味しています。全人口の10%が不健全な呼吸パターンに苦しんでいます。その割合は、喘息患者では30%に、不安症の患者では83%にまで跳ね上がります。コアスタビリティとは、骨盤上の体幹姿勢と運動のコントロール能力であり、統合された競技活動において、力や運動を最大限に発揮して、末端部位までの転移をコントロールできる能力です。すなわち、近位の安定性が遠位の可動性を決定づけます。
最良のコアトレーニングプログラム
Cookによると、『最良のコアトレーニングプログラムとは、呼吸をしながら、また、所定の競技や活動でコアが受けるストレスを模倣するように機能的に四肢を動かしながら、自然でニュートラルな位置に脊椎を保持することを要求するトレーニングである』と言われています。活動中にニュートラルな脊椎を保持することは、脊椎の整合性を維持するとともに、身体の様々な構造を傷害から守ると考えられています。Kolarは、四肢の運動中に横隔膜が重要な働きしていることを見出しました。Kolarはまた、別の研究において、腰痛とコアの機能、および横隔膜の機能の間の関連性を証明しました。Kolarは、慢性腰痛(LBP)の患者18名と腰痛のない人29名を対象に、通常呼吸中および通常呼吸を行いながら外的負荷に抵抗して行う上肢と下肢の等尺性屈曲運動中に測定を行いました。その結果Kolarは、慢性腰痛(LBP)群は横隔膜の移動がより小さく、横隔膜がより高い位置にあることを指摘しました。
研究者らは『横隔膜の呼吸運動はその安定化の働きと同時に起こる。横隔膜の身体安定機能が弱い人はこの呼吸との同時性に障害があり、静椎分節への過剰な負荷が生じる』と述べています。
この知見は、横隔膜の活動が不十分だったりコーディネーションが悪かったりすると、脊椎の安定性が損なわれることを示唆しています。