運動単位の概略とトレーニングによる収縮性能の変化|フィジオ福岡 筋生理学

神経系は、脊髄と脳幹の運動ニューロンから送られる信号によって筋力を制御します。1個の運動ニューロンとそれが支配する筋線維は運動単位(motor unit)と呼ばれ、これは神経系が運動を制御する基本的な機能単位です。この概念は、1925年にCharles Sherringtonが提唱しました。

典型的な筋は数百個の運動ニューロンの支配を受けます。これらの運動ニューロンの細胞体は脊髄か脳幹に密集しています。運動ニューロンの軸索は前根を通って脊髄を出るか、脳幹の脳神経となって脳幹を出て、末梢神経として筋に到達します。軸索が筋に到達すると軸索は枝分かれし、数個〜数千個の筋線維を支配します。シナプス入力が運動ニューロンの膜電位を閾値より上に脱分極させると、ニューロンは活動電位を発生させ、活動電位は軸索に沿って筋の中の終末まで伝導します。

運動を制御する基本的な機能が運動単位

活動電位は神経筋接合部で神経伝達物質を放出させ、この物質が筋線維の筋線維鞘で活動電位を発生させます。筋線維は、直径の太い無髄軸索と似た電気的特性を持ちます。したがって、活動電位は、筋線維鞘に沿って伝導しますが、より大きな膜受容量のためその速度は軸索より速くありません。

同じ運動単位に含まれるすべての筋線の活動電位はほぼ同時に発生するため、細胞外電流が発生し、これが加算されて、活動している筋の近くに電場電流を発生させます。成熟した脊髄動物の筋では、各筋繊維は1つの運動ニューロンに支配されている場合がほとんどです。1つの運動ニューロンに支配される筋線維の数、すなわち神経支配比は、筋の種類と機能によりさまざまです。ヒトの骨格筋では、この平均値は外眼筋の5から、下肢筋の1800までの幅があります。神経支配比は1つの運動単位内の筋線維数を指すので、異なる神経支配比は、同一筋で運動単位が活動するごとに増加する張力の平均値の差を示します。神経支配比はまた、筋の制御の細かさを示してもいます。神経支配比が小さいほど、活動する運動単位の数を変えたときに、より細かい制御を行うことができます。

運動単位の構成要素

1つの運動単位の筋線維は筋全体に分布し、他の運動ニューロンに支配される筋線維と混在しています。四肢の筋では、1つの運動単位に所属する筋線維が、肢の筋の容量の8%から、多い場合は75%までも占めることがあります。この筋では筋線維100本あたり2〜5本が同一の運動単位に所属します。したがって、この容量中の筋線維は、20〜50の運動単位に所属していることになります。この分布は年齢やある種の神経筋疾患により変化します。例えば、運動ニューロンの脱落により支配を失った筋線維は、隣の運動ニューロンの軸索が枝分かれすることにより再支配を受けることがあります。いくつかの筋では、その運動単位の筋線維がある区画に限局していて、その区画は筋線維の主要な枝が支配する領域に一致します。異なる区画の選択的活性化が、異なる方向の力を発生し、これは生物力学的に利点となります。例えば、前腕の正中神経や尺骨神経は、複数の腱をもつ3つの手外筋の別々の区画を支配していて、これにより指の比較的独立した運動が可能になります。このように、1つの筋は機能的に異なるいくつかの領域を含む場合があります。

収縮速度、最大張力、疲労性の3つがポイント。

習慣的な身体活動レベルの変化は、運動単位の収縮の3つの性質、すなわち収縮速度、最大張力、疲労性に影響し得ます。加齢や寝たきり、四肢の不動化、宇宙飛行などの筋活動の減少は、3つすべての最大能力を減少させます。身体活動の増加の効果は、活動の強度と期間に依存します。強い収縮を短時間行う運動を1週間に数回行うことは、収縮速度と運動単位の張力を増加させます。一方、弱い収縮を長時間行うことは、運動単位の疲労性を減少させうると考えられます。運動単位の収縮の性質が変化すると、筋線維の構造的特殊化と生化学的性質の適応がもたらされます。例えば、筋力トレーニングによる収縮速度の向上は、筋線維の最大短縮速度の増加をもたらしますが、これは線維中のミオシン分子の機能の向上によるものだとされています。同様に、最大張力の向上は、筋線維の径や固有の張力発揮能力の増加をもたらしますが、これは収縮タンパク質の数と密度の増加により引き起こされます。

対照的に、筋線維の疲労性の変化は、毛細血管の密度、ミトコンドリア数、興奮収縮連関、代謝能力のような、多様な要因の適応によってもたらされます。持久性トレーニングは、ミトコンドリアの産生を促し、筋線維の酸化能力を増大させ、したがって疲労性を減少させます。この筋線維の適応能力は加齢により減少しますが、筋は90歳でもトレーニングに対する反応を有しています。

筋力トレーニングと持久性トレーニング

筋力トレーニングと持久性トレーニングは筋線維の収縮性能に影響しますが、筋線維の構成を変える効果はありません。数週間の運動はIIa型とIIx型線維の比率を変えますが、I型線維の比率に変化は生じません。すべての型の筋線維はトレーニングに反応して適応しますが、その程度はトレーニングにより異なります。例えば、2〜3ヶ月の下肢の筋力トレーニングは、I型線維の横断面の面積を0〜20%、II型線維で20〜60%増加させ、IIa型線維の比率を約10%増加、その分IIx型線維の比率を減少させます。

さらに持久性トレーニングは、筋線維の型の比率を変えることなしに酸化代謝経路の酵素活性を上昇させますが、トレーニング期間に応じてIIa型線維とIIx型線維の相対的比率は変化します。逆に、数週間の寝たきり状態や四肢の不動化は、筋線維の比率を変えませんが、線維の太さや固有の張力発揮能力を減少させます。身体活動は筋のI型線維の比率にほとんど影響を与えませんが、相当な介入は効果を与えます。例えば、宇宙飛行士は、持続的に筋への重力の影響を減少させ、下肢のI型線維の比率を減少させます。また、数週間、低頻度で持続的に電気刺激を与えると、I型線維の比率が著しく増加し、線維の太さは顕著に減少します。同様に、外科的に筋の神経支配を変化させると、筋の活動パターンが変化し、次第に移植した神経がもともと支配していた筋と同様の性質を示すようになります。下肢の速収縮性の筋を支配していた神経を、例えば遅収縮性の筋につなぐと、遅筋はより速筋のようになります。

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