よい姿勢、わるい姿勢を判断する基準は、どのような視点でみるのかによって異なります。
力学的には、姿勢の安定性、力の効率などが問題になり、形態学的には、脊柱、四肢の骨格、関節や筋の構造など、神経学的には神経筋の活動、運動生理学的には、疲労、循環やエネルギー代謝、心理学的には、性格、心理的状態などが挙げられます。
また、美学からはプロポーションなどが要素として挙げられます。
同じ姿勢であっても、それぞれの視点によって、姿勢には異なる意義があり、それにしたがって理解され、評価されます。
力学的視点からみた姿勢は、力学的に安定していることが重要です。
静止姿勢では、頭部、体幹および四肢の各体節の重心を統合した重心線が支持基底のなかに位置していること、その位置が支持基底の中心に近いほど安定性は保たれます。
中心から遠ざかるほど、重力による回転トルクが生じやすくなり、バランスを維持するための筋活動や靭帯の緊張が必要になります。
生理学的視点からみると、生理的に疲労しにくいことが重要になります。
同じ姿勢を長時間にわたって保持すると、筋の血液循環量が低下して、筋疲労が生じます。
少しずつであっても、姿勢を変化させることが筋疲労の軽減に有効です。
過緊張による筋の強い収縮も、血液循環の停滞を起こします。
循環器、呼吸器、消化器、泌尿器などの内臓器官に過剰な圧迫、負担が加わらない状態であって、正常に機能する姿勢が良いと考えられます。
心拍数は、姿勢の変化によって変動します。
仰臥位では、循環静力学的にはもっとも負荷が少なく、心拍数も少なくなります。
立位姿勢では、身体各部の静脈系や毛細血管内圧が上昇し、循環系はそれに順応するように、心拍数が増加します。
心拍数は、臥位、端座位、立位の順で多くなります。
血圧も同様の順で高くなりますが、その差は大きくありません。
運動生理学的には、消費エネルギーが少なく、最小の筋活動による姿勢や動作が遂行できる姿勢が良いと考えられます。
心理学的には、心理的に安定していることが重要です。
姿勢は、骨格の構造や神経筋の働きだけで定まるのではなく、個人のパーソナリティや情動の影響を強く受けて、その時々の心理状態を反映します。
感情や心の持ち方は、神経系全体の機能に強く影響し、個人の姿勢に表れます。
喜び、幸福感、自信などは、伸展位が顕著な姿勢となって表れ、不幸や劣等感は、屈曲位が顕著に表れます。