近年の運動のパターン化にみる運動理論の限界|フィジオ福岡 運動科学

運動学習を考える場合、ニューラルネットワークのような構成とともに、その運動の論理的な意味づけを行うことが重要であり、またその過程で両者が矛盾なく形成されていくことが重要です。
とくに感覚的な情報をもとにした運動のパターン化や、論理をはたらかせるためにパターン認識が重要であることは間違いないかと思います。

ある種の感覚入力に対し、ある程度反射的に運動パターンが出現するのは、脳の神経回路の性質からみると、処理を簡素化し最適化するためには、ある程度の細かい処理を先に1つのパターンとして保存しておき、そのパターンを組み合わせて一つの運動に表出するほうが効率がよいことになるので、ある種の運動をパターン化することを自然に行っているのだと思います。

近年のトレーニング科学においても、運動パターンを考慮してトレーニングを行うことも増えてきました。
しかしながら、生態心理学などの側面からパターン化を考えると、あまりにもパターン化にこだわるとその弊害が起こってくることも考えるようになります。
例えば、ある入力に対して決まった出力になるようパターン化を過度に進めると、同じパターンであるけれど若干ノイズが入ったものについては、別のものと判断してしまうことがあります。
これは、「パターン化を進めすぎて、そのパターンでしか対応できず、それ以外のことができなくなってしまうこと」を示しています。
さらに、このパターン化が意味づけされたものでないとすれば、同じような事象に対してそのパターンをあてはめることができないことになります。
適切な表現でないかもしれませんが、1+1は解答できますが、2+2は解答できないというようなものです。
つまり、意味を理解せずドリルのように繰り返していわゆる「正しい運動=適切な運動パターン」ができるようになった場合、正しく動けるから問題ないように思えますが、他の同じような動きの中でできない場合、役に立たないということになります。
「パターン化していなければ適切に運動として表出できないのか」というとそうでもなく、ある程度身体的要素がクリアしていれば、パターン化されていなくてもうまく制御して運動が行えるケースも多いはずです。

確かに、ある程度のパターン化は必要ですが、いつもそのパターンで起こる運動は少なく、ある程度あいまいであることが、新しい運動制御の仕方や代償的動作を生み出すことにつながると考えられます。
代償動作はなるべく起こさないというのが現在のトレーニング科学の常識になりつつありますが、個人的には代償動作がダメなのではなく、代償動作がケガやパフォーマンス低下のリスクであるかどうかが重要であり、代償動作を用いたほうがうまく動けるのであれば、それもまた良しとするべきであると考えています。
ですから、繰り返してパターン化することが、必ずしも正しいとはいえないと思います。

正しいとされる身体の動きを学んでいくうえで、「理論」というものは非常に大事ですが、実際に動く人間がその理論を噛み砕き理解しながら、実際の運動に表出することができれば、ある程度パターン化したものを運動実行者本人が噛み砕いて表出した本質的な動きになるのではないでしょうか?
一見無駄のように思える動作が、複数のパターン化されるものの関連や独立を明確にする上で、無駄なものが実は重要になることって意外に多いのかと思います。
このように、運動のパターン化においては、きっちりとしたパターン化ではなく、ある程度のノイズと揺らぎのようなものがある方がよいといえるのではないでしょうか?

個人的には要素還元論的な視点で「ヒト」というものを考えるのにはやはり限界があって、学問としては非常に細分化でき考え方もまとめやすいとは思いますが、じゃそのひとつひとつが組み合わさってもそれぞれが影響をうけずに独立的に働いてくれるかというとそうでもなく、お互いが共感、あるいは共鳴し、おのずと個ではなく組織として機能してくのが「ヒト」なんだと考えています。
だからこそ、「システム化」「パターン化」って響きに少し違和感を感じるのかもしれません。
「こうだから次はこうだ」って、ヒトってそんなに単純でもなければ、簡単に理解できるようなものでもないんじゃないかと思います。

実際のアスリートは感覚的な部分で動いているわけで、理論で考えるということの限界があるということだと思います。
トレーナーとしてはその感覚的な部分をどうトレーニングするかを考えていくことが重要になると考えています。

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