眠りの舞台裏:レム睡眠とノンレム睡眠が織りなす脳と身体の物語

私たちが夜ごと体験する“眠り”には、目には見えない複雑なリズムが存在しています。表面的にはただ目を閉じているように見えても、その内側では驚くほど精密な生理学的ドラマが展開されているのです。その主役となるのが「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」、この二つのステージです。

まず注目すべきはノンレム睡眠、いわば“脳の休息時間”とも称されるフェーズです。脳の電気的活動は静まり、ニューロンの発火頻度は日中と比べて著しく低下します。この段階では、脳の代謝活動も最小限に抑えられており、エネルギー消費も減少します。実際、PETによる研究では、ノンレム睡眠中に大脳皮質の代謝率が著しく低下することが確認されています。これは脳が一時的に「電源を落としている」状態に近いとも表現されます。

ノンレム睡眠中の身体もまた特徴的です。運動機能をつかさどる大脳皮質の活動が抑制されることで、全身の筋活動は減少し、リラックスした状態が維持されます。ただし完全な無動ではなく、必要に応じて寝返りなどの運動は可能な柔軟性も備えています。この状態では副交感神経が優位になり、交感神経の緊張はほどけていきます。心拍数や血圧は低下し、体温も下がります。そして興味深いことに、消化器系の機能はこの間に活性化する傾向があります。つまり、ノンレム睡眠は“脳を休ませながら、内臓をメンテナンスする時間”ともいえるのです。

一方、レム睡眠はその対極にあるようなステージです。“脳は目覚めているのに身体は眠っている”という逆説的な状態であるため、「パラドキシカル・スリープ(逆説睡眠)」とも呼ばれています。このレム睡眠では、脳の活動が再び活性化し、脳波のパターンはむしろ覚醒時に近くなります。夢を見るのもこの時間帯が中心であり、感情処理や記憶の統合に関与しているとされます。実際にFunctional MRIを用いた研究では、レム睡眠中に扁桃体や帯状回といった情動関連の脳領域が活発に働いていることが示されています。

しかし、活発に動く脳とは裏腹に、身体はまるで麻痺したかのように動きを止めています。これは脳幹から脊髄に向かって「筋活動を抑制する信号」が送られているためで、四肢の骨格筋は眼筋や横隔膜などを除き、ほぼ完全に脱力状態になります。こうした生理的麻痺のおかげで、私たちは夢の中で空を飛んだり走ったりしても、それを現実に再現することはないのです。ただし、眼球だけは例外で、レム(Rapid Eye Movement)の名の通り、不規則かつ高速に動いています。この眼球運動こそが、レム睡眠の名の由来でもあります。

では、これらレム睡眠とノンレム睡眠は、どのような順序で訪れるのでしょうか。実はこの二つは、無作為に現れるのではなく、極めて規則正しく交互に繰り返されます。健康な成人の場合、睡眠の約75%がノンレム睡眠、残りの約25%がレム睡眠で構成され、1回のノンレムからレムへの移行を「睡眠単位(sleep cycle)」と呼びます。通常このサイクルは90分程度で、1晩に4〜5回繰り返されます。

眠りについた直後はまず軽いノンレム睡眠(第1段階)から始まり、徐々に第2、第3、第4段階と深くなっていきます。最も深い睡眠に達した後、徐々に浅くなり、初めてレム睡眠に入ります。この「ノンレムからレムへ、そして再びノンレムへ」という流れは、眠りのリズムとして一貫して守られており、どれほど睡眠が進んでも、この順序が逆転することは基本的にありません。さらに、夜の後半になるにつれて、深いノンレム睡眠の割合は減少し、レム睡眠の割合が増える傾向があります。

このようなリズムは、私たちの健康にとって非常に重要です。たとえばレム睡眠の減少は感情の調整や記憶形成に悪影響を及ぼすことが知られており、うつ病やPTSDの患者ではレム睡眠のパターン異常が報告されています。一方、ノンレム睡眠の不足は、脳の代謝廃棄物の除去機能を低下させ、アルツハイマー病リスクの上昇に関係している可能性も指摘されています。睡眠とはただの休息ではなく、精巧に設計された“脳と身体のリセット機構”です。レム睡眠とノンレム睡眠が織りなすリズムを知ることは、自身の健康やパフォーマンスを高める上で極めて有意義です。眠りの質を軽視することなく、その裏側にある精緻な科学にも目を向けてみると、日々の眠りが少しだけ特別なものに感じられるかもしれません。

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