別腹の正体

「別腹」って本当にあるのと思ったことありませんか?甘いものは「別腹」などと言われることがあります。お腹いっぱいに食べたにもかかわらず、美味しそうなデザートが出てくると、ペロリと平らげてしまう人を見ると「別腹」は本当にあるんだなと思ってしまいますよね。「別腹」は『広辞苑』に2008年刊行の第六版で初めて登場した比較的新しい言葉のようです。誰でも意味がわかるほどこの言葉が広まったのは、多くの人が実感できる経験を持っているからでしょう。

「美味しさ」と『報酬予測誤差』

デザートのみならず、飲み会の後のラーメンなど、もう満腹のはずなのに食べてしまうという現象は、食欲が「エネルギーの充足と不足」だけで制御されているとすると、まったく説明ができないことになります。いくら美味しいものでも食べ続けていると飽きてくる、これは誰しも経験するものです。このとき最初に感じたあの感動、あの美味しさはもはや感じることができません。なぜなら「美味しさ」は、『報酬予測誤差』というものが関係しているからです。これが美味しさの1つの要因であり、食事が口に運ぶたびに同じ味だったら、その味は予測可能なものになってしまい、報酬予測誤差がなくなります。だから飽きてしまうわけです。それに加えて血糖値が上がってくれば、満腹感を感じて「もうお腹いっぱい」ということになります。

しかし、ここで味や舌触りや見た目に「変化」が起きるとどうでしょうか。飽きていたものとはまったく違うカテゴリーのものがあらわれると、エネルギーが満たされていても、いままでにない「報酬」への期待が生まれます。このとき食欲が復活するのです。

報酬系への充足という側面

実際に、目先が変わったものは小さな精神的興奮を呼び、それが自律神経系を介して胃腸の働きも活発にします。こうして『別腹』ができあがるのです。フランス料理のフルコースでは、魚料理と肉料理の間に口直しのためにシャーベット状の氷菓(グランテ)が供されます。これもまさにマンネリを防ぎ、食欲を持続させる働きをしています。このように報酬予測誤差がゼロにならない工夫をするのも、料理人の腕のみせどころともいえます。『別腹』は、食欲にはエネルギーの側面からだけではなく、報酬系への充足という側面があることを示す例といえるでしょう。

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