見た目では分からない脂肪 ― 筋肉内脂肪が示す身体の“隠れ代謝”の真実

筋肉内脂肪(intramuscular adipose tissue, IMAT)という言葉は、一般的な健康診断ではあまり耳にすることがありません。しかし近年、この「筋肉の中に潜む脂肪」が、代謝や健康、さらには身体機能の維持に密接に関わっていることが、多くの研究から明らかになってきています。皮下脂肪や内臓脂肪と違い、筋肉内脂肪は筋繊維のすぐ隣に存在し、筋収縮に直接影響を及ぼす可能性がある点で極めてユニークな存在です。

筋肉内脂肪は簡単にいえば筋線維の間に入り込んだ脂肪です。これは皮下脂肪のようにエネルギーを蓄える“倉庫”というよりも、異所性脂肪の一種であり、身体の脂肪貯蔵システムが飽和した結果、筋組織内にまで脂肪があふれ出した状態といえます。内臓脂肪や皮下脂肪が過剰になると脂肪細胞が炎症を起こし、余剰の脂質を筋肉や肝臓などに送り込む。これが筋肉内脂肪の形成メカニズムのひとつと考えられています。

問題はこの脂肪が単なる「余分な脂質」ではないということです。筋肉はエネルギー代謝の中心的な器官であり、インスリンによってブドウ糖を取り込む主要な組織でもあります。ところが、筋肉の中に脂肪が入り込むとインスリンシグナルが阻害され、糖を取り込む能力が低下します。つまり筋肉内脂肪が多い人は、筋肉量が十分にあっても代謝の効率が悪く、インスリン抵抗性を持ちやすくなるのです。これは糖尿病発症の大きなリスク要因のひとつとして、2000年代以降、多くの臨床研究で報告されています。たとえばGoodpaster(2000年)の研究では、筋肉内脂肪が多い被験者ほどインスリン感受性が低い傾向が示されました。

加齢もこの脂肪の増加に深く関係しています。年齢を重ねると、筋肉の合成と分解のバランスが崩れ、筋たんぱくの回転率が低下します。筋肉が新陳代謝を繰り返さなくなると、脂質が代謝されずに残りやすくなり、結果として筋肉内に蓄積します。これがいわゆる“サルコペニック・オベシティ”と呼ばれる現象で、筋肉量の減少と脂肪蓄積が同時に起こる状態を指します。筋肉内脂肪が増えると筋線維の収縮効率が下がり、見た目に筋肉がある人でも実際の筋力が低下していることがあります。MRIで観察すると、筋肉の断面が脂肪によって白く抜けて見えることがあり、これは高齢者や運動不足の人ほど顕著です。

では、この筋肉内脂肪はどのようにすれば減らすことができるのでしょうか。ここで鍵となるのが「筋肉を動かすこと」です。単純に脂肪を減らすだけなら食事制限でもある程度可能ですが、筋肉内脂肪の場合、筋の代謝を直接刺激しなければ十分な効果は得られません。レジスタンストレーニング(筋トレ)によって筋肉のタンパク質合成が促進されると、筋線維の周辺でエネルギー需要が増し、脂質酸化が進みます。一方、有酸素運動はミトコンドリアの活動を活発化させ、脂肪酸をエネルギー源として利用しやすくします。

実際2014年から2015年にかけて行われた研究では、レジスタンストレーニングと有酸素運動を組み合わせたプログラムが、筋肉内脂肪を有意に減少させることが確認されています。被験者は週2〜3回、1回あたり30〜60分の運動を10週間続けただけで、筋肉内脂肪量が明確に低下しました。しかも、トレーニング強度を上げて「速いテンポで動かす」方が、脂肪代謝がより促進される傾向が見られたという興味深い報告もあります。筋肉が素早く収縮・弛緩を繰り返すことで、細胞内のAMPK(エネルギーセンサー酵素)が活性化し、脂質酸化が強く誘導されるためと考えられています。

さらに、筋肉内脂肪の代謝には、運動以外にも生活習慣全体が関わります。睡眠不足や過剰なストレスは、コルチゾールの慢性的な上昇を引き起こし、脂質代謝を阻害します。食事面では、糖質過多よりもむしろ脂質の質が問題であり、特に飽和脂肪酸の過剰摂取は筋内脂肪の蓄積を促進するとされています。オメガ3脂肪酸(EPAやDHA)の摂取が多い人では、筋肉内脂肪が少ない傾向があるという報告もあります。

つまり、筋肉内脂肪とは単なる「筋肉の中の脂肪」ではなく、身体の代謝状態を映し出す鏡のような存在です。見た目に痩せていても筋肉内脂肪が多ければ、代謝は鈍く、インスリン抵抗性が高く筋出力も低下している可能性があります。逆に筋肉をよく使う生活を送る人は、筋肉内のミトコンドリア活性が高く、脂肪をうまく“燃やしながら保つ”ことができる。こうした人では、筋肉内脂肪がエネルギー源として柔軟に利用され、健康的な筋肉構造を維持するのです。

筋肉内脂肪を減らすとは単に「脂肪を落とす」ことではなく、「筋肉を生きた代謝器官として蘇らせる」ことに他なりません。動かす、休む、食べる—このサイクルが整ったとき、筋肉は再び脂肪を蓄える場所ではなく、燃やす場所へと変わっていきます。

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