腰椎椎間板ヘルニアはアスリートに発生する腰痛の原因としてしばしば問題となっています。一般的な治療方法は保存療法と手術療法に分けることができますが、腰椎椎間板ヘルニアは自然治癒が期待できる疾患であるため、高度麻痺が存在する場合を除いては、第一に保存療法が選択されているのが現状です。
ヘルニアの治療
保存療法における一般的な治癒過程はヘルニア塊の自然吸収が起こり、それに伴い症状も改善するというもので、症状改善に必要な期間は 4 ヶ月程度といわれています。4 ヶ月程度の保存療法を試みても症状が改善しない場合、もしくは症状が繰り返す場合には、手術療法が適応されることが多いかと思います。
大きなヘルニア塊ほど自然縮小が生じやすいという報告がいくつかある中で、ある研究においては水平面でのヘルニア塊が大きいほど手術適応の可能性が高まるという結果を示したものもあります。この報告は実はこの研究がアスリートを対象に調査を行ったことに起因すると考えることができるでしょう。アスリートは一般患者と異なり、競技時に日常生活レベルよりも遥かに高い負荷を繰り返し腰椎にかけることになるため、一般患者であれば保存療法で治療を終えているような症例でも、競技復帰のため、あるいは高いパフォーマンスの再現のために手術療法を選択している場合が多いということもいえます。
機能解剖としての腰椎の特徴
ヘルニアの評価としてはヘルニア塊の大きさ、方向などの評価も非常に重要な要素になります。画像診断は非常に重要な要素にはなります。しかしながら、画像診断だけの判断は非常に危険です。なぜなら、画像所見とは全く違った症状も多いのがヘルニアなんです。問診、動作観察やスペシャルテスト、その上での画像からの情報など多角的に症状を捉えることが大事なんです。
特に腰椎だけでみていくと腰椎は5個の椎体が積み重なっていて第3腰椎を中心に約30度前彎していますが、脊柱の基部を形成するパーツなので力学的に負担が大きくいろいろな障害が起きやすいのが特徴です。この腰椎の動きは複雑ですが、屈曲(おじぎ動作)、伸展(反り返り動作)、回旋(ゴルフスイング等のひねり動作)、側屈(サッカーのフェイント動作など)の要素に分けることができます。
しかし、骨・関節・椎間板軟骨・靭帯だけで複雑な運動をスムーズに行うことは困難なので、周辺の筋群(体幹筋群)がサポートしてくれます。腰の痛みを保存療法で治すとはいっても、じっとしていれば治るものではなく、症状や状態に合わせた適度な運動療法が必要になるということがいえます。解剖学的形態から頚椎・胸椎・腰椎はそれぞれ得意な運動方向があります。頚椎は各方向に動きやすく、肋骨が付着する胸椎は比較的動きにくく、腰椎は前後方向(屈曲伸展)が得意です。特徴に従って腹側筋群と背側筋群がバランスを取り合いながら、活動を行っている。それが腰椎の特徴になりますので、やはり運動は不可欠になりますね。