ダイエットにおいて「鉄分」はあまり注目されない栄養素かもしれませんが、実は減量中の体調維持や代謝機能に深く関係する非常に重要なミネラルです。特に女性に多い鉄欠乏性貧血は、疲労感やめまい、集中力の低下などを引き起こし、ダイエット中の運動や日常活動にも大きく影響します。したがって、健康的に体重を落とすためには、鉄分の十分な摂取が欠かせないのです。
鉄は主に赤血球内のヘモグロビンの構成要素として知られており、体内の酸素運搬において中心的な役割を果たします。酸素はエネルギー産生の過程に不可欠な要素であり、特に運動時や筋肉活動時には、その必要量が増大します。鉄が不足するとヘモグロビンの合成が妨げられ、酸素供給が低下し、結果として基礎代謝の低下やエネルギー産生の非効率化を引き起こします。この状態は「代謝の停滞」を招き、いわゆる「痩せにくい体質」へとつながる可能性があるのです。

さらに、ダイエット中はカロリー制限によって全体の食事量が減少し、必然的に鉄の摂取量も不足しがちになります。ある研究では、低カロリーダイエットを行っていた女性の約50%が鉄欠乏のリスク群に該当するという報告もあります。これは特に月経のある女性に顕著であり、月経による鉄の喪失がさらに鉄欠乏を悪化させる要因となります。
鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。ヘム鉄は主に動物性食品に含まれており、体内への吸収率が15~35%と高いのが特徴です。一方、非ヘム鉄は植物性食品に含まれ、吸収率は2~20%と低めですが、ビタミンCやたんぱく質と一緒に摂取することで吸収効率が高まることがわかっています(Hurrell & Egli, 2010)。このため、ダイエット中でも鉄分を意識的に取り入れるには、食品の組み合わせを工夫することが重要になります。
具体的には、レバーや赤身の肉、マグロやカツオなどの赤身魚はヘム鉄を豊富に含む代表的な食材です。特に豚レバーには60gあたり7.8mg、鶏レバーには5.4mgの鉄が含まれており(日本食品標準成分表2020年版(八訂))、これらを週に数回取り入れるだけでも大きな効果が期待できます。一方、非ヘム鉄を多く含む食品としては、ほうれん草、ヒジキ、切り干し大根、高野豆腐、納豆、卵などが挙げられます。これらは毎食でも取り入れやすく、和食中心の食生活においては比較的自然に摂取できるものです。
また、アサリやシジミなどの貝類も鉄の優れた供給源であり、100gあたりの鉄含有量は非常に高いです。特にシジミの味噌汁やアサリの酒蒸しなどは、日常の食卓にも無理なく取り入れることができます。非ヘム鉄の吸収を高めるには、これらの料理にレモン汁や野菜を添えるなど、ビタミンCとの組み合わせが推奨されます。

一方、鉄の吸収を阻害する成分も存在します。たとえば、緑茶や紅茶に含まれるタンニン、コーヒーに含まれるポリフェノール、さらにはカルシウムの過剰摂取などは鉄の吸収を抑制することが知られています。これらの飲み物は食間に摂るようにし、食事中の飲用は控えるよう心がけるとよいでしょう。
ダイエット中に「体重は落ちているのに疲れが抜けない」「運動すると息切れが早い」と感じる方は、鉄欠乏の可能性を疑ってみるべきです。特に軽度の鉄欠乏は血液検査に現れにくく、自覚症状だけでは気づきにくいケースもあります。定期的な栄養状態のチェックと、バランスのとれた食生活が重要です。
鉄分は単に「貧血予防」のためだけの栄養素ではありません。体脂肪を効率よく燃焼させ、筋肉や脳に十分な酸素を届けることで、ダイエットの成果を最大化するための“代謝の土台”といえる存在です。鉄分をしっかり摂ることで、ただ痩せるのではなく「健康的に引き締まった体」を手に入れることができるのです。



















