運動スキル獲得とイメージトレーニング

運動スキルの獲得には、実際にその運動の実行を体験していることが重要であると言われています。
これに対し、運動課題のイメージトレーニングやメンタルプラクティスと呼ばれるものは、その課題に関連する現実の運動を一切実行せず、その運動を遂行している状態を心の中で描く活動・想像する心的活動のことをいい、昨今ではこのイメージトレーニングの重要性やメンタルプラクティスの効果も提唱されています。

トレーニングに先立って課題に関連する運動表象が存在することがイメージトレーニングに重要な役割を果たす!

研究レベルにおいて、Schmidt とLeeの研究で、「イメージトレーニングの有効性」が提唱されています。
これらの研究では、イメージトレーニングの効果は、実際のフィジカルトレーニングには及ばないものとされていますが,イメージトレーニング或いはフィジカルトレーニングの単独のトレーニングよりも両者の組み合わせた方が効果的であると報告しており、イメージトレーニングの有効性を示唆するものとなっています。
一方でMulderらは、イメージトレーニングにおいては「学習者がその課題に関連する運動表象を既にもっていることが必要」であることを示しています。
彼らは、「イメージトレーニングは既存の運動表象が利用される過程であり、従って運動イメージは筋活動に直接影響を与えるのではなく運動システムの中でも運動のプランニングやプログラムなどのより高次レベルと関わるものである」と提言しています。
この「トレーニングに先立って課題に関連する運動表象が存在することがイメージトレーニングに重要な役割を果たす」という事実は、神経学的なリハビリテー ションの可能性やその制約を考慮する上で重要であるということが示されています。

運動イメージは実際の運動の実行可能性の制約を受ける、極めて現実的な特性を持っており、この実行可能性は個人の全般的な運動能力にではなく実行を意図している特定の行為の予測に基づいている

またイメージするのがパフォーマンスだけではなく、そのイメージする環境も大きく影響するという考えもあります。
環境に関する人の知覚判断は、その知覚内容に関連するある行為を自分が実行する能力があるかどうかによって、影響されることがこれまでに多数報告されています。
例えば、重い荷物背負っている時には坂はより急勾配に感じられる、ヒットを上手く打つ人や,離れたところにある対象までの距離はリーチングを可能にする道具を持っているとそうでない時に比べて近くに感じられる,等々の現象です。
Wittは、このような現象が起こるのは環境のレイアウトを特定する視覚情報とその環境の中で行動する能力に関わる情報を結びつける何らかの過程があるからであり、そこに重要な関わりを持つのが内的な運動シミュレーションの過程であると報告しています。
そこで、上述のような知覚の歪みは運動のイメージや実行可能性の予測だけでも起こり得るだろうと実験によってこれを確かめています。
その結果は、「運動イメージは実際の運動の実行可能性の制約を受ける、極めて現実的な特性を持っており、この実行可能性は個人の全般的な運動能力にではなく実行を意図している特定の行為の予測に基づいていること」を示しています。
本来実行の能力があっても実行を意図していない時や、また意図があっても関連する実行器官の使用に干渉する同時課題が課されると、知覚判断は影響されない、つまり運動イメージはその機能を十分果たし得ないということを示しているのです。

意図や現実的な実効性をどれだけ盛り込んでイメージするかというのがポイントになる。

これらを総合的に考えると、運動イメージの果たす機能は、運動意図や実行可能性の予測といった要因の影響を受けるものということが言えるとともに、運動イメージを単なる空想レベルの現実性の低いものとするか、或いは現実の運動実行に極めて近い機能を持つものとするかには、意図や実効性の予測が重要な要素であり、イメージには意図や現実的な実効性をどれだけ盛り込んでイメージするかというのがポイントになるということがわかります。

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