脳とストレス

脳は現実の、あるいは想像した刺激に反応して生物学的ストレスを生じます。ストレスに関連した多くの生物学的反応は、最初にストレスを起こす引き金となった危険から体と脳を守るのを助けています。

脳によるストレス回避の方法

ストレスを受けるとステロイドホルモンであるコルチゾールが副腎皮質から放出されます。放出されたコルチゾールは血流に乗って運ばれ、数多くのニューロンの細胞質にある受容体に結合します。それにより活性化された受容体は細胞の核まで移動し、そこで遺伝子の転写が始まり、最終的にはタンパク質が合成されます。コルチゾールが作用して起こる結果の1つは、より多くのCa2+が電位依存性イオンチャネルを介してニューロンに流入することです。これは、直接的なチャネルの変化によるものかもしれませんし、細胞のエネルギー代謝の変化によって間接的に引き起こされるものかもしれません。

その機序はどうであれ、短期間の間にコルチゾールは脳がよりうまくストレスに対処できるように働いており、おさらく脳によるストレス回避の方法の発見を助けているのではないかと考えられています。

慢性的にストレスに晒されるリスク

しかし慢性的にストレスに晒されると、それだけでは収まりきれない有害な効果をもたらすこともあります。例えば、細胞内の過剰なカルシウムは有害なものとなります。ニューロン内にカルシウムが過剰になりすぎると、そのニューロンはその毒性により死んでしまいます。これに対して疑問を抱いたある研究者らは、果たしてコルチゾールはその細胞毒性を持っているのかを研究しました。彼らは数週間にわたってラットにおけるコルチゾールであるコルチコステロンを毎日注射すると、コルチコステロン受容体を持つ多くのニューロンで樹状突起が脆弱になることを発見しました。数週間の後、これらの細胞を死に始めました。この疑問を裏付けるものとして、毎日ホルモンを注射する代わりにストレスを与え続けた際も似たような結果となったと報告されています。

また、複雑な社会的な階層社会を持つヒヒを用いた研究では、1年間同じ檻に入れられた多数のヒヒの中で、上位のヒヒ、つまりボスではない下位のヒヒの多くに胃潰瘍、大腸炎などが起こり、明らかにストレスが原因で死亡したという報告があります。さらに副腎の肥大、海馬のニューロンの広汎な変性がみられ、その後の研究でコルチゾールが海馬に直接障害を与えていることが分かりました。こうしたコルチゾールとストレスの効果は、脳における加齢の効果に似ています。事実、慢性的なストレスにさらされると脳は早発性の老化を来すことが研究により明らかにされています。

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