睡眠と記憶

人は自分の力を試すとき、何かを得ようとしているとき、試験を受けます。

人は試験が迫ると、思い出したように勉強に励むようになります。

それだけでは飽き足らず、試験前、一睡もせずに試験に挑む人がいます。

これは、一夜漬けでギリギリまで覚えたいという気持ちからくるものですが、明らかに逆効果であるとされています。

睡眠が記憶を強化することは古くから知られており、1924年にジェンキンスとダレンバックによって報告されています。

これは学習における睡眠の意義を示唆する、最初の研究結果となります。

彼らは健康なヒトを対象に、アルファベットを組み合わせてつくった10の無意味な単語を午前10時に記憶させました。

そのあとの1〜8時間を、覚醒している群と就寝させた群をつくり、それぞれに覚えた無意味な単語を想起させるというテストを行いました。

その結果、睡眠をしていた群のほうが、覚醒していた群よりも単語の忘却がはるかに少なかったといいます。

彼らは、睡眠中には覚醒時と比べて外部からの刺激が少ないので、記憶に干渉が起こらないために忘れにくいのである、と解釈しました。

この説は干渉説とよばれています。

しかし、近年、睡眠中には記憶が保持されるだけでなく「強化される」ことが示されています。

睡眠は記憶の強化・固定化に関わっているということです。

これは干渉説では説明しきれません。

実は、このことは古代ローマ時代の思想家クインティリアヌスが2000年以上も前に述べています。

曰く「上手く繰り返すことができなかったことも翌日には容易にできるようになっている。睡眠という、一見健忘を引き起こすと思われているときこそ、記憶を強化している。」とのことですが、実際に、スポーツや楽器の練習でその日は上手くならなかったのに、2〜3日後に何もしていないのに上手になったということが起こり得ます。

睡眠と記憶の関係については、さまざまな実験が行われています。

たとえば、テトリスなどのゲームを全くの初心者に行わせたり、タイピングの速度を指標にしたりというものです。

こうした課題ではどれも被験者は最初上手にできませんが、だんだん上達していきます。

そして睡眠をとると、その間は練習していないにも関わらず、明らかな上達がみられました。

このことから、睡眠は記憶を保持するだけでなく強化することが分かります。

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