アキレス腱の特性と腱断裂
アキレス腱は人体において最も厚く、強靭な腱となります。踵骨後面に付着することで下腿三頭筋のモーメントアームを増加せ、底屈の力学的効率を大きく高めています。アキレス腱の底屈モーメントアームは約5〜6cmとなります。足関節の肢位とアキレス腱の長さについては、いくつか異なる見解がみられます。
アキレス腱の運動特性
アキレス腱の底屈モーメントアームは足関節中間位で最大であるという報告がある一方で、底屈に伴ってモーメントアームが増大するという報告も存在します。しかし、アキレス腱のモーメントアームが足関節の筋の中で最大であるということは、見解が一致しています。足関節が外がえしの肢位、あるいは少なくとも中間位であれば、アキレス腱は回外のモーメントアームも有します。したがって、腓腹筋とヒラメ筋は、潜在的には後足部の回外に関与しています。
アキレス腱の強度と剛性は足関節全体の剛性と関連していますが、歩行における立脚相ではバネのように伸ばされることでエネルギーを貯蔵し歩行効率を高めています。アキレス腱は強い底屈運動や正常歩行において、最大約5〜6%長さを変化させます。アキレス腱の弾性は、歩行や走行、跳躍動作時において受動的なエネルギー源となり、これらの効率を最大限に発揮する上で重要な役割を果たしています。アキレス腱の最大強度は低負荷の場合に約4600Nであり、負荷量とともに増加します。その大きさや強度に反して、アキレス腱は断裂の頻度が最も高い腱であり、発生率が高い理由として、筋腱移行部から踵骨までの間の腱の中間部では、血液供給が減少していることが考えられます。
アキレス腱周囲炎の特徴
使いすぎ症候群のひとつで、スポーツ障害として高頻度にみられるアキレス腱周囲炎ですが、中年以降のジョギングやウォーキングを習慣にしてる人に好発し、ランニングや跳躍動作による下腿三頭筋への負荷の増大、下腱の変性(加齢変化)、筋力や柔軟性の低下、回内足や偏平足などが発症要因となります。また、靴が足に合っていないなどが誘因・原因にあります。ストレスの反復によってアキレス腱に小さな断裂や瘢痕が生じて変性し、アキレス腱の炎症が周囲のパラテノン(腱鞘間の滑液組織)に及んで慢性的な炎症・肥厚をきたして腱と癒着します。
症状としては、アキレス腱部の腫脹、疼痛、圧痛、熱感などがあり、進行すると足関節の運動障害(背屈障害)、歩行障害をまねきます。足関節を動かしたときアキレス腱がきしむような摩擦音を生じるケースがあります。検査・診断としては、スポーツ歴や臨床所見(局所の圧痛、腫れ、熱感)から診断を進めます。類似症状をもつ病態(滑液包炎、踵骨の骨折後の変形、腱の骨化、腓腹筋の部分断裂など)との鑑別のためにはX線検査、MRI検査、超音波検査などを行います。
治療では保存療法、手術療法がありますが保存療法では局所の保護・安静(スポーツ活動の減量・中断)、薬物療法(外用薬、内服薬)ステロイド局所注射、理学療法、装具療法(足底支持板の使用が有効)があります。また、難治例に対しては手術療法(癒着剥離術や腱鞘切開術)が検討されることもあります。予後として保存療法によって回復することが多いです。
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