筋の大きさとそのメリットデメリット

筋力の強さは、筋の断面積に比例します。したがって、身体が大きければ、筋の断面積も大きくなるので筋力自体も強くなります。しかし、体重当たりの筋力を考えるとき、身体が大きいと相対的に小さくなることに留意すべきです。

体重が重ければ重いほど、筋肉の全体量も多くなるのは当然です。しかし、筋力評価において、筋力を体重で割った値を用いると、一見合理的のようですが、筋力は、筋肉量ではなく、筋の断面積に比例するため、体重が大きく異なる人同士の筋力評価においては、注意が必要です。体重50kgの人と100kgの人、2人ともが100kgの錘を挙上できる場合、体重あたりの筋力は50kgの人の方が2倍の筋力を持っています。また、体重50kgの男性で、握力が50kgということはあり得ますが、体重100kgで握力が100kgということはまずありません。重量挙げなどの成績を体重で割れば、軽量級の方の値が高くなって当然です。

カラダのサイズ感の重要性

つまり身体が小さい方が筋力それ自体は高くなくても、体重当たりの筋力が高くなるため、自分の筋力で、身体をコントロールするのは容易になります。それに比べて、身体が大きいと、筋力自体は高くても、体重当たりの筋力は低く、自分の筋力で身体を自在にコントロールすることは容易ではありません。これは、体重と筋力との関係から起こることであって、身体の大きな人の方が、筋の能力が低いわけではありません。一方、伸展と屈曲のように、拮抗する筋相互のバランスや、左右差・上肢と下肢の比較などの点で、筋力を評価する場合には、体格を考慮する必要はありません。例えば、膝の筋力では伸展力に比べると屈曲力の方が小さいですが、その比率が伸展力に対し、屈曲力が60%以下になると、膝の障害を起こしやすいと言われます。また、利き手と非利き手で、筋力に差があるのは仕方ないですが、スポーツ選手にとって、その差が大きすぎるのは好ましくないと言えます。

筋をつけすぎると重くなるは本当か?

スポーツの世界には、筋をつけすぎると重くなる、動きが鈍くなる、といった通説があります。スポーツに限らず、筋の発揮能力はそのサイズによって決まるわけですから、同じ運動スキルをもっているなら、筋が大きいほどパフォーマンスは上がることになるはずです。しかし実際には、筋が大きいほど有利になる競技ばかりではなく、筋が大きくなると不利になる、邪魔になるということもあるでしょう。当然、筋には質量があり、筋は身体を動かすエンジンであるとともに負荷でもあるため、そのメリットとデメリットの兼ね合いから競技ごとの理想の体型というのが存在するわけです。例えば、短距離走選手では、筋によるメリットはそのデメリットを上回るため、体重当たりの筋量が大きくなるほど走行速度は上がることになります。反対に長距離走選手では、大きくなりすぎた筋は呼吸・循環器系に対しての負荷になるため、明らかなマイナスとなるでしょう。

四肢の慣性モーメントが増加することのデメリット

筋が大きくなることにより起こる問題には、体重が増加することのほかに、四肢の慣性モーメントが増加することが挙げられます。慣性モーメントとはつまり回転のしにくさであり、これが高くなるほど物体は回転しにくくなります。例えば、フィギュアスケートでスピンをする際に腕を折りたたむのは、慣性モーメントを小さくするためでもあります。筋を無闇矢鱈に大きくさせると関節を回転させるために必要な力が増加するため、慣性モーメントを考慮して筋を大きくさせる位置を考える必要があります。競走馬つまりサラブレッドを思い出してみると、腰、臀部は大きく発達し、末端に行くほど細くなるという特徴をもっています。末端に余分な重りがないため、慣性モーメントは小さくなり、関節ひいては馬体を動かす効率が高くなります。この強い推進力を発揮する筋を持ちつつ、より回転させるという力学的構造を持っているからこそ、サラブレッドは500kgを超える身体をもちながらあれだけ速く長く走れるわけです。とはいえ、四肢が細ければいいというわけでもなく、細くなりすぎればそれだけ力も弱くなってしまうため、やはりそれもバランスとの兼ね合いになるでしょう。

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