随意運動の下の無意識を研究した科学者たち

ドイツの生理学者ヘルムホルツは、1860年、神経インパルス伝達速度の計測に成功しました。

その後、刺激に対して反応するのに要する時間の研究を行いました。

当時の意識活動は、同じくドイツの生理学者ミュラーが提唱する感覚特殊神経エネルギー説に則って、全て光を介して行われると考えられていたことから、伝達速度は光速に匹敵すると考えられていました。

しかし、ヘルムホルツが計測したのは、速くても毎秒90mほどで、さらに、反応速度の研究から考えても、情報が脳に伝達されるまでかなりの時間を要することが分かりました。

そのためヘルムホルツは、神経信号を脳が受け取り、変換し、経路を切り替える時間が必要であり、それがこの時間であると結論づけました。

つまり、知覚や随意運動といったどんな意識的な活動でも、こうした無意識下の活動が必要であると主張しました。

このヘルムホルツの理論を、オーストリアの偉大な精神医学者フロイトはさらに発展させ、無意識的な精神活動には、潜在的無意識・動的無意識・前意識的無意識があるとしました。

潜在的無意識とはヘルムホルツのいう無意識下の活動のことです。

潜在的無意識は、潜在記憶を含んでおり、自転車の乗り方やピアノの弾き方の学習など、手続き記憶に用いられます。

線条体、小脳、扁桃体がこの機能を担っています。

動的無意識とは、フロイトの理論の焦点ともなる、抑圧された考え、葛藤、性的衝動、攻撃的衝動に関連した精神活動です。

最後に前意識的無意識は、無意識の中で最も容易に意識化できるもので、運動行動の組織化や計画に関連しており、前頭葉がこの機能を担っています。

こうしたヘルムホルツとフロイトの理論に関連して、アメリカの生理学者ベンジャミン・リベットは、どんな意識的な行動にも無意識がついて回るならば、自由意志とはなにか?という疑問から、随意運動に先駆けて観察される準備電位について研究しました。

実験で被験者に身体を動かそうと意図してもらう際の準備電位を計測したところ、被験者の指を動かそうという自分の意図に気づいたタイミングは、準備電位が起こる前ではなく1秒も後であることが分かりました。

つまり、「身体を動かしたい」と本人が自覚する前に、神経活動は行われてたということになります。

自由意志の根底には無意識下の活動が存在しているのでしょう。

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